第6回定例会報告 2009年7月

2009-07-27

テーマ・・・血虚(血の不足)
     『血は女性の根本:血の重要性と,補血薬の応用』
報告者・・・さくら堂漢方薬局 毛塚重行

 栃木中医薬研究会7月の定例会では,血(けつ)の不足「血虚(けっきょ)」をテーマに,中医学講師の王愛延先生にお越しいただき勉強会を行いました。血は,「気(き)」や「水(すい)」とともに体を構成する重要な物質であり,全身に潤いや栄養を送り届けています。月経のある女性にとっては,血の状態が大きく心身に影響を与え,とくに生理不順や更年期障害,不妊症などの問題に直結します。そのため『血は女性の根本』とも言われ,血液を大切に保持していくことが非常に重要です。そこで女性に多見される病症を中心に検討を行いました。

血の生成と働き

 血は飲食物から吸収した栄養や,水などが合わさって生成されます。また血は肝に蓄えられ,心によって全身に送られます。そして全身の皮毛・経絡・筋骨・臓腑など全ての組織器官に栄養を与えます。

血の不足=血虚でみられる症状

 血が不足した状態を血虚といいます。血虚ではめまいや血色不良を生じやすく,また月経や血を蓄える肝の機能に大きな影響を与えます。肝は血を蓄えることの他に,筋肉や神経の働きを支えており,また,目との関連が深い臓です。そのため肝の蔵血量の減少(肝血虚という)では,筋肉のつり,神経過敏(イライラ,自律神経失調,のどの異物感など),目の疲れや乾燥といった症状が現れやすくなります。また,月経量は少なくなり,甚だしい場合には無月経となります。

 さらに,血流をつかさどる心も血に栄養を与えられており,その作用が低下すると(心血虚という),心の働きである血行や思考・睡眠などに影響し,動悸・不眠・不安感・夢が多いといった症状を来します。

血虚に用いられる生薬=補血薬

 血虚に対しては血の不足を補う生薬を用います。それらの生薬を補血薬と呼びます。補血薬に分類される生薬はあまり多くなく,それぞれの個性が際だっています。代表的な物を以下に挙げます。

 生薬・・・働き
 当帰(とうき)・・・補血、活血、止痛
 熟地黄(じゅくじおう)・・・補血、補腎陰、補腎精
 白芍(びゃくしゃく)・・・養血、柔肝、平抑肝陽
 阿膠(あきょう)・・・補血、止血、潤肺
 何首烏(かしゅう)・・・補血、潤腸、消炎
 熟何首烏(加熱加工)は補腎陰、補腎精(白髪に繁用)
 竜眼肉(りゅうがんにく)・・・養血、安神、補益心脾

補血方剤

 補血を目的とした方剤の代表は四物湯(しもつとう)です。その構成は,補血薬の当帰,熟地黄,白芍,そして血流を促進する活血薬の川芎(せんきゅう)から成ります。さらに四物湯をもとに様々な処方が開発されました。たとえば活血薬を加えた桃紅四物湯(とうこうしもつとう),芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)。止血作用を強化した芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)。補気薬を加えた聖癒湯(せいゆとう)や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)。血流を改善し関節痛などを治療する独活寄生湯(どっかつきせいとう),疎経活血湯(そけいかっけつとう)。皮膚の乾燥・痒みに多用する当帰飲子(とうきいんし)。補血の当帰を核に,他の補血薬や補気薬,止血の阿膠,活血の川芎などを配合した婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)などが挙げられます。

 また四物湯類とは異なり,心血虚にも対応する方剤として帰脾湯(きひとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)などがあります。そのほか,腎精(人間の根本的なエネルギー)を補う生薬を配合した参茸補血丸(さんじょうほけつがん)や双料参茸丸(そうりょうさんじょうがん)なども挙げられます。

不妊症・月経不順への応用

 現代社会に於いて不妊治療は重要な医療課題となっています。西洋医学の分野ではめざましい進歩がある一方,ホルモン剤の副作用や機械的な治療,体質軽視への弊害などに対する批判が常にあります。そのため漢方薬で体質を改善し,より妊娠・出産しやすい健康的な体をめざしたいとする人も少なくありません。実際,不妊症でお悩みの人は,月経不順や月経痛のほか,気力・体力の低下,ストレス過多,胃腸虚弱など,様々な状況を抱えており,全体的に対処する漢方の考え方は理に適っていると言えるでしょう。

 不妊症への漢方的なアプローチは,このように全身の状況の改善を図りながら,月経の調子を整えて行きます。漢方薬の選択は体質などによって各人各様ですが,月経の調子を整え,妊娠に有利な体質をめざす上で,当帰は非常に重要な生薬となります。月経では血液の流出があり,その周期は女性ホルモンによってコントロールされます。補血を施すということは,失われた血液を補うだけでなく,女性ホルモンのバランスなどにも,良い影響を与えることがわかっています。ですから補血は,月経周期を改善したり,妊娠・出産・更年期などをより順調に経過するために役立つのです。当帰は補血薬の代表であり,さらに穏やかな活血作用を伴い,また便秘や冷え性の改善にも役立ちます。ですから逆に軟便気味の人や,のぼせやすい人に用いる場合には,用量に注意し,他薬との配合割合を十分検討する必要があります。

筋肉の“張り”“つり”“こり”“痙攣”“痛み”などへの応用

 肝に蓄えられる血は筋肉を養います。血虚では筋肉がつりやすくなり,こむら返りや,部分的な痙攣などを起こしやすくなります。さらに更年期以降の女性では,女性ホルモンの減少により筋肉が固くなる傾向があり,肩や背中のこり,痛みなどを生じやすくなります。このような場合にも,補血・活血・止痛に優れる当帰や白芍を中心とした方剤が有効です。

その他

 カゼの後期や何らかの原因で,咽が乾燥し,声がれや空咳が出る場合,通常は粘膜を潤す働きのある麦門冬(ばくもんどう)などを中心とした方剤が用いられますが,体力が低下し,冷える傾向がある方などでは,血虚の体質がよく見られます。そのような時には,当帰や阿膠を使用すると,血色が良くなり,咽が潤い,症状が改善します。

 貧血や老人性皮膚掻痒症などでは,補血薬は不可欠です。また加齢や疲労の関わる不眠・動悸・不安感・健忘には,精神を安定させる補血薬の竜眼肉や酸棗仁(さんそうにん)が活躍します。

 補血薬の基本処方は四物湯ですが,状況に合わせて様々な加減法が用意されています。また血虚以外の諸条件を考慮して,さらに様々な生薬や方剤との組み合わせを検討することにより,一人一人にあった治療法を提供できるのが漢方の特徴といえるでしょう。

【関連する補血製剤】

 ●婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)
 成分・・・当帰、黄耆、地黄、茯苓、芍薬、川芎、甘草、党参、阿膠
 効能、効果・・・更年期障害による次の症状
 頭痛,肩こり,のぼせ,めまい,耳鳴り,貧血,腰痛,腹痛,冷え症,生理不順,生理痛

 ●帰脾錠(きひじょう)
 成分・・・黄耆、白朮、茯苓、遠志、甘草、木香、当帰、酸棗仁、竜眼肉、党参
 効能、効果・・・貧血、不眠、健忘

 ●参茸補血丸(さんじょうほけつがん)
 成分・・・黄耆、牛膝、当帰、人参、竜眼肉、鹿茸、杜仲、巴戟天
 効能、効果・・・次の場合の滋養強壮
 虚弱体質,肉体疲労,病後の体力低下,胃腸虚弱,食欲不振,血色不良,冷え症


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