TOP ボタン 会員店紹介 ボタン 会員店募集 ボタン 相談掲示板 ボタン リンク集 ボタン
TOP > 【連載】大熊先生の「漢方はこうして副作用を防いできた」

東洋医学を知ろう
⇒ 中医学とは?

私たちの活動
⇒ 日本中医薬研究会の活動の歴史

漢方薬局・薬店って・・・
⇒ ドキドキ初体験 漢方薬局訪問!

中医学と病気
⇒ インフルエンザ
⇒ 夏バテ・夏カゼ
⇒ 不妊
⇒ 漢方での不眠
⇒ 更年期
⇒ 風邪
⇒ 漢方美容(ニキビ)
⇒ めまい
⇒ 夏の脳梗塞
⇒ 逆流性食道炎
⇒ 生理痛
⇒ 花粉症

連載コーナー
⇒ 大熊先生の「漢方はこうして副作用を防いできた」

漢方相談 Q&A
⇒ Q&A集

安心、安全、中国のくすり
⇒ 中国のくすりは大丈夫なの

おすすめ おもしろ栃木
⇒ 宇都宮駅周辺

おすすめ本
⇒ オススメ本はこちら!

大熊先生の「漢方はこうして副作用を防いできた」


 【漢方はこうして副作用を防いできた】
    ―― 処方の「薬性」を調整するための生薬配合法
                             掲載紙:両毛新聞(3ヵ月に1回)
                                    (VOL47までは月1回)

 <大熊俊一 オオクマ トシカズ>
  1980年 東京薬科大学卒業。薬剤師試験合格。
  1981年 同大学第2薬化学教室助手。
  1982年 同退職後、研究生。
  1987年 同大学に学位論文を提出し、審査・試験に合格し薬学博士を取得。
  1991年 有限会社大熊薬局代表となる

【バックナンバー】
No.54 体液の恒常性維持を助ける漢方処方
No.52 痛みを起こしにくい身体を回復する処方
No.53 生命維持の原動力を鼓舞する処方
No.51 消化器系内の連携を正常にもどす処方
No.50 消化器系の組織を養い機能を高める処方
No.48 生命力を消耗させる「虚熱」を抑える処方
No.46 休養態勢を整えて生命力を養う漢方処方
No.44 心身を浄化する漢方処方「温胆湯」
No.42 人体の自律機能を活発化する漢方処方
No.49 慢性的な耳鳴・難聴の基礎改善の処方
No.47 消耗や枯渇を防いで生命力を養う名処方
No.45 生命を支える組織を休養させる基本処方
No.43 自律機能系の興奮・過熱を鎮める処方
No.41 「緩補」を基礎にした「峻補」の漢方処方
No.40 胃腸に効く薬性を結集させた漢方処方
No.38 湧き上がる活力を全身に送り届ける薬性
No.36 神経を休養させて心臓をいたわる薬性
No.34 喘息に適用される2系統の薬性
No.32 感染症に適用される2系統の薬性
No.39 皮膚・粘膜に活力を与える薬性
No.37 過熱や脱水を防ぎつつ活力を高める薬性
No.35 ぐっすり眠って活力を養うための薬性
No.33 咳を止める3系統の薬性
No.31 蓄積された不要産物を除去する薬性
No.30 冷えきった人体機能を復活させる薬性
No.28 血液の流入と還流をよくする薬性
No.26 活発で安定した精神状態のための薬性
No.24 夏の体の水分調節を助ける薬性
No.22 感染症・アレルギーに対する薬性
No.29 脳卒中の引き金になる「内風」を防ぐ薬性
No.27 筋肉をしっかりさせる薬性
No.25 オーバーヒートを抑える薬性
No.23 関節痛・神経痛・腰痛を解消する薬性
No.21 呼吸器と皮膚に作用する薬性
No.20 心臓と脳に効く薬性
No.18 自律神経系の失調を回復する薬性
No.16 全身の栄養バランスを改善する薬性
No.14 エネルギー代謝を改善する薬性
No.12 「滑性」という不思議な薬性をもつ生薬
No.19 胃腸機能を改善する薬性
No.17 血液循環を改善する薬性
No.15 生命力を生み出す根源を養う薬性
No.13 「補」と「瀉」の薬性バランス
No.11 「沈降性」という薬性をもつ生薬
No.10 「昇浮性」という薬性をもつ生薬
No.8 「温熱性」の生薬にも種類がある
No.6 「淡味」の生薬は脇役として活用
No.4 「酸味」の生薬は組み合わせて生かす
No.2 「苦味」の生薬は乾燥性に注意して活用

No.9 「寒涼性」の生薬は誤解と無知を正して
No.7 「芳香」の生薬は心と体の目覚まし
No.5 「鹹(かん)味」の生薬は負担にならない活用を
No.3 「甘味」の生薬の副作用
No.1 「辛味」の副作用は「酸味」や「甘味」で防ぐ

No.54 体液の恒常性維持を助ける漢方処方
 漢方における「腎」は生命を維持するための基礎的な機能を果たす器官系を象徴し,体液の恒常性維持という現代医学的な腎臓の機能も一要素として含みます.日本で比較的よく活用されている「牛車腎気丸」は,宋代の医学書『済生方』からの出典で,体液の恒常性維持機能の衰えの改善に役立つ漢方処方です.「腎」系に作用し,組織の栄養面(「陰」)を整えながら,機能の活発さ(「陽」)を高める薬効のある,漢代の「八味地黄丸」(原名「腎気丸」)に「牛膝」・「車前子」を加味した成分構成です.

 「補腎滋陰」という薬効を生む主要な6成分は,「熟地黄」・「山茱萸」・「山薬」の3補薬と,「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」の3瀉薬とからなります.基礎を支える「腎」と,態勢転換の「肝」,栄養吸収の「脾」にも作用し,甘・酸・渋味と温熱性の3補薬の滋養・保護の薬性と,淡・苦・辛味と寒涼性の3瀉薬の排水・浄化の薬性でバランスをとり,組織に栄養素と水分を蓄える休養態勢の条件を穏やかに整えます.

 「益火助陽」という薬効を生む少量配合の成分は「附子」・「桂枝」です.辛味と温熱性による鼓舞・振奮の薬性で「少火」を燃やし,体液代謝を含めた「腎」の基礎機能の活発さを高め,エネルギッシュな活動態勢を支えます.

 「利水下行」という薬効を生む加味の成分は「牛膝」・「車前子」です.苦・酸・淡味と沈降・滑性による排水・泄利の薬性で,余剰の体液を下の関門から排出する働きを増強します.
▲up
No.53 生命維持の原動力を鼓舞する処方
 日本で現在も剤型を様々に変えながら汎用されている「八味地黄丸」は,漢代(3世紀)の張仲景という医師が考案した処方で,元来の名称は「腎気丸」です.「腎」は,現代医学的な腎臓だけでなく,泌尿・生殖・内分泌・基礎代謝・免疫の機能まで包括する,恒常性維持・自己保存・生命維持の器官系を表しています.「八味地黄丸」の主な目的は「腎」系に不足した「陽」を回復することですが,基盤を整備する意味で,その反対の「陰」を補う6生薬を主要成分として組み込んだ処方構成が特徴的です.

 「補腎滋陰」という薬効を整備する6生薬は,「熟地黄」・「山茱萸」・「山薬」の3補薬と,「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」の3瀉薬からなります.この薬効の意味は,宋代(12世紀)の銭仲陽という医師が6生薬を「六味地黄丸」という独立の処方にしたことで初めて明確に認識されました.補瀉とも「腎」系に作用するのが共通で,心身の態勢を自律調節する「肝」と,飲食物を消化吸収する「脾」にも補瀉に作用する生薬を配して,甘・酸・渋味と温熱性の3補薬の滋養・補益・保護の薬性と,淡・苦・辛味と寒涼性の3瀉薬の排水・抑制・浄化の薬性により,ゆったりした休養態勢で蓄えられる組織の栄養と潤い(「陰」)を穏やかに「腎」系に整えます.

 「益火助陽」という薬効を生む少量配合の成分は「附子」・「桂枝」です.辛味と温熱性の2生薬の鼓舞・振奮の薬性で「少火」を燃やす効果により,「腎」系から湧き上がる盛んな活動態勢を支える機能の力強さ(「陽」)を回復します.
▲up
No.52 痛みを起こしにくい身体を回復する処方
 漢方では,関節痛・腰痛・神経痛・筋肉痛 など,上下肢・体幹・頭頸のどこかに痛みをともなう症候・疾患は「痺証」と総称されます.「痺証」に適応する処方には,唐代(7世紀)の医学書『千金方』を原典とする「独活寄生湯」があります.痛みを鎮めるだけでなく,痛みを起こしにくい身体を回復する目的をもつ処方です.日本では従来,速効的な鎮痛作用の処方を求める傾向が強かったせいか,1990年代まで「独活寄生湯」の手軽に服用できる製剤は作られませんでしたが,日本人の身体が真に求めていた絶妙な薬性の処方だと思います.

 「去風湿・止痺痛」という薬効を「独活寄生湯」の構成生薬の「独活」・「桑寄生」・「秦艽」・「防風」・「細辛」などが発揮します.辛・苦味・芳香の生薬が有する発散と乾燥の薬性が,「痺証」の発生・発展・悪化の原因である「風」や「湿」の病理要素を除去することで痛みを鎮めます.

 「健脾益気・調肝養血・補腎益精」という薬効を「人参」・「茯苓」・「甘草」・「熟地黄」・「当帰」・「白芍薬」・「杜仲」・「桑寄生」・「牛膝」が発揮します.甘・酸味の生薬の滋養と保護の薬性が,消化吸収を担う「脾」を健全にして,運動器を含む身体機能の力強さや耐久性を支える「気」を補充します.態勢転換を自律調節する「肝」を安定化し,身体をゆったり休養させる「血」の流れを増やして,運動器が無理なく働ける栄養条件を整えます.骨代謝も含めて身体の恒常性維持と抗老化のために働く「腎」を守り,その原動力を生み出す「精」の消耗を防ぎます.
▲up
No.51 消化器系内の連携を正常にもどす処方
 夏の感冒などにともなう嘔吐や下痢(霍乱)に用いられる漢方薬に,宋代の「藿香正気散」があります.消化器系を構成する機能の正常化のための配慮が行き届いた処方です.漢方における広義の消化器系の区分と名称は現代医学の定義とは少し違います.「胃」が飲食物を受け入れ,流動物状にまでこなして下部へ送り,「脾」の働きで消化を進めて,栄養素と水分を吸収し,循環器を介して「肺」へと上げ,酸素とともに全身に供給し,不要分は下に排泄します.「藿香正気散」の生薬構成の目的はこの機能区分の認識に基づき,呼吸器感染でも影響を受ける消化器系の本来の正常な上昇・下降の流れをしっかり取りもどすことです.

 「醒脾昇清・解表化湿」という薬効を発揮する生薬群は「藿香」・「紫蘇」・「白芷」・「桔梗」などです.芳香・軽質・辛味の生薬に特有の昇浮・発散の薬性が「脾」から「肺」への連携に作用し,障害となる感染症「表証」や水分停滞「湿」を解消し,消化・吸収・供給の機能を促進します.障害のためにへたばった「脾」を目覚めさせて,必要物「清」の快調な流れを復活させるのです.

 「和胃降濁・理気燥湿」という薬効を発揮するのは「半夏」・「陳皮」・「厚朴」・「大腹皮」・「生姜」などです.苦・辛味の生薬から生まれる沈降・乾燥の薬性が「胃」と「肺」に作用し,連携運動リズムの失調「気逆」をおさめ,「湿」の解消に寄与し,飲食物の受納・伝導・排泄の連携を助けます.失調して逆上する「胃」を和ませて,不要物「濁」の順調な流れを回復させるのです.
▲up
No.50 消化器系の組織を養い機能を高める処方
 胃腸を中心とした消化器系(「脾」)の回復に役立つ漢方薬に,宋代の公定書『和剤局方』に収載された「参苓白朮散」があります.同書が原典の「四君子湯」を基本骨格とする加味処方の一つです.機能の弱まり(「気」の不足)を回復する主要目的を直系的に受け継いでいる「香砂六君子湯」と違い,組織の疲弊(「陰」の不足)の回復にまで幅を広げた加味処方です.

 「益気健脾」の薬効を「人参」・「白朮」・「山薬」・「甘草」などの生薬が生み出します.「脾」を健やかにする作用が共通で,とりわけこれらの4種は,甘味に特有な補益の薬性で「気」を補い,弱まった胃腸の消化吸収機能を高めます.さらに,「白朮」は苦味の乾燥の薬性,「茯苓」・「薏苡仁」は淡味の排水の薬性,「白扁豆」は芳香の発散の薬性で,軟便・下痢のもとになる消化管内・組織間の水分停滞を解消して胃腸の負担を軽減します.「縮砂」は芳香の賦活の薬性で,消化物の疎通に関わる消化管運動・消化液分泌を促進し,「蓮子」は渋味の収斂の薬性で下痢を止めます.「桔梗」は軽質の昇浮の薬性で栄養素の全身への供給を促進します.

 「養陰扶脾」の薬効を「山薬」・「薏苡仁」などの生薬が生み出します。「脾」への作用は共通ながら,甘味の補益の薬性には「陰」を補う働きもあり,口・唇・指先の乾き・荒れ・ささくれ・角化のもとになる,疲弊した消化器系の関連組織を扶養します.「茯苓」・「白扁豆」・「蓮子」・「桔梗」は,この目的にも支障なく,補助になるよう厳選された穏やかな薬性の生薬です.
▲up
No.49 慢性的な耳鳴・難聴の基礎改善の処方
 「柴磁地黄丸」という漢方薬は,宋代の名医 が考案した「六味地黄丸」に「柴胡」と「磁石」を配合した処方です.「耳聾左慈丸」の名で清代から伝えられる2処方の一方で,「耳鳴丸」とも呼ばれます.名称のとおり,「六味地黄丸」の適応対象の「腎陰虚」が基礎にある慢性的な耳鳴と難聴の治療に特化させた処方です.

 「滋陰補腎」の薬効を「六味地黄丸」の6生薬が生み出します.「熟地黄」・「山茱萸」・「山薬」は,甘・酸・渋味と温熱性による滋養・補益・収斂の薬性があり,「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」は,淡・苦・辛味と寒涼性による排水・抑制・発散の薬性でバランスをとります.生命維持の機能系「腎」に効くのが共通で,心身の態勢転換の自律調節系「肝」,栄養供給の消化器系「脾」にも効く生薬を配して,休養態勢で体内に蓄えられるべき栄養と潤いの要素「陰」を,総合療法的に無理なく穏やかに回復させます.

 「疎肝解欝」の薬効を「柴胡」が生み出します. 辛味・芳香・軽質による昇浮・発散・疎通の薬性があります.「肝」に刺激を与え,感情・欲求や生理的リズムに従って態勢を転換する連携の失調による緊張や抑欝を解消します.

 「平肝潜陽」の薬効を「磁石」が生み出します.鹹味・重質と寒涼性による沈降・抑制・鎮静・滋養の薬性があります.「腎」を滋養し,休養態勢を支える基礎的な仕組みを整え,「肝」を安定させ,活動態勢で働く機能の亢進を抑え,酷使されている聴覚器系の回復に役立ちます.
▲up
No.48 生命力を消耗させる「虚熱」を抑える処方
 「知柏地黄丸」は「腎陰虚」に適応する漢方薬で,清代の医学叢書を出典としていますが,宋代の名医が考案した「六味地黄丸」の加味処方の一つです.加味された「知母」と「黄柏」は,激しい「虚熱」を緩解する配合生薬の定石で,金・元代の名医が他の処方のために考案した薬対です.これを取り入れた「知柏地黄丸」は時代を超えた名医の合作処方とも言えます.

 「滋陰補腎」の薬効を生むのが「六味地黄丸」の6生薬です.「熟地黄」・「山茱萸」・「山薬」は,甘・酸・渋味と温熱性による滋養・補益・収斂の薬性があり,「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」は,淡・苦・辛味と寒涼性による排水・抑制・発散の薬性があるのが対照的です.生命維持のため働く「腎」に効くのが共通で,心身の態勢を自律調節する「肝」,飲食物を消化吸収する「脾」にも効く生薬を配することで,休養態勢で蓄えられる「腎」の栄養と潤いの要素「陰」を,総合療法的に無理なく穏やかに回復させます.

 「清熱堅陰」の薬効を加える生薬が「知母」と「黄柏」です.苦味と寒涼性による抑制・浄化の薬性が2生薬に共通ですが,滋潤と乾燥の薬性が対照的です.「陰」の不足を体内で代償しようとする異化作用で過剰に産生される熱「虚熱」を2生薬で抑えると同時に,熱代謝にともなう水分の消耗を「知母」で,「腎」の体液調節機能の減退による水分の停滞を「黄柏」で,それぞれ防ぎます.こうして,機能的な亢進を抑え,物質的に過不足がないように絶妙なバランスをとって,組織を堅固に守ります.
▲up
No.47 消耗や枯渇を防いで生命力を養う名処方
 「八仙長寿丸」は明代の総合医学書を原典とする名処方です.宋代の「六味地黄丸」を基本として,加味された生薬「麦門冬」と「五味子」にちなんで「麦味地黄丸」とも呼ばれます.健康維持と抗老化のため基本処方の適応範囲をさらに「肺腎陰虚」へと展開させた,人体生理への深い洞察と緻密な薬性理論の結晶です.

 「滋陰補腎」の薬効を生むのは「六味地黄丸」を構成する「熟地黄」・「山茱萸」・「山薬」・「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」です.生命力を維持する「腎」への作用が共通で,心身の態勢を自律調節する「肝」,飲食物を消化吸収する「脾」にも作用する生薬を配して,甘・酸・渋味と温熱性による滋養・補益・収斂の薬性と,淡・苦・辛味と寒涼性による排水・抑制・発散の薬性で,心身の休養で蓄えられる「腎」の栄養と潤いの要素「陰」を穏やかに総合的に回復させます.

 「養陰潤肺」の薬効を加えるのは「麦門冬」で,外界から清気をとり入れる「肺」に作用します.甘味と潤質と寒涼性による滋養・補益・抑制の薬性で,呼吸器系の組織の栄養と潤いの要素を整えるとともに,動脈血を送り出す先の皮膚や内臓の組織も養い潤す効果があります.

 「斂肺帰腎」の薬効を加えるのは「五味子」で,酸味による収斂・摂納の薬性があります.全身に必要物を送り出す上源に位置する「肺」の組織を引きしめ,体液の恒常性を維持する下の関門である「腎」の機能をしっかりさせ,無用な放散や排出による消耗や枯渇を防ぎます.
▲up
No.46 休養態勢を整えて生命力を養う漢方処方
 「杞菊地黄丸」は,宋代の「六味地黄丸」を基本骨格として考案された有名な加味処方です.加味された生薬「枸杞子」と「菊花」の組合せは,この処方が清代の総合医学書への収載に至るまでの漢方理論の進歩を反映し,「肝腎陰虚」に適応される代表処方の一つになりました.

 「補腎滋陰」という薬効を発揮する生薬群は,「熟地黄」・「山茱萸」・「山薬」・「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」で,「六味地黄丸」を構成する6種です.生命力を維持する機能系「腎」への作用が共通で,態勢転換の自律調節系「肝」と栄養吸収の消化器系「脾」にも作用する生薬を配して,甘・酸・渋味と温熱性による滋養・補益・収斂の薬性と,淡・苦・辛味と寒涼性による排水・抑制・発散の薬性でバランスをとり,心身の休養で蓄えられる「腎」の組織の栄養と潤いの要素「陰」の不足を穏やかに改善していきます.

 「養血柔肝」と「補腎益精」の薬効を加えるのは「枸杞子」です.「肝」と「腎」に作用し,甘味と潤質による滋養・補益の薬性で,栄養素と水分を組織へ供給する休養態勢のゆったりした血液の流れ「血」を増やし,生命力の維持のための根源的な要素「精」の蓄えも守ります.

 「平肝熄風」の薬効を加えるのは「菊花」です.「肝」に作用し,甘・苦味と寒涼性による保護・抑制・鎮静の薬性があります.「陰」の不足を代償するための栄養代謝の過熱にともなう自律機能系の緊張・興奮から,痙攣・昇圧・振戦など,「内風」の症状が起こるのを抑えます.
▲up
No.45 生命を支える組織を休養させる基本処方
 「六味地黄丸」は宋代の小児科の名医が考案し,後世の医師に多大の影響を与えた漢方処方です.金・元・明・清代にわたり,漢方理論の進歩を反映した多彩な応用処方を生み出す展開を経て,現代も,優れた薬性バランスの「補腎滋陰」の基本処方として汎用されます.

 「補腎滋陰」の薬効を発揮する主役の生薬は「熟地黄」です.濃厚な甘味による高い滋養の薬性で,「腎」系の「陰」の不足を改善します.「腎」系は,発育・成長・生殖・恒常性維持・抗老化に関わる,生命を支える機能系です.「陰」は心身の休養で蓄えられる,組織の栄養と潤いの要素です.補佐役の生薬の「沢瀉」も「腎」系に作用し,寒涼性による抑制,淡味による排水の薬性で,栄養代謝の過熱を抑え,滋養の過剰も防ぎ,体液調節を助けます.

 「養肝斂陰」の役割の脇役は「山茱萸」です.酸味と渋味による収斂・保護の薬性があり,「肝」系に作用し「陰」の消耗を防ぎます.「肝」系は心身の活動/休養を切り換える自律機能調節系です.補佐役「牡丹皮」も「肝」系に作用し,寒涼性と苦味による抑制,芳香と辛味による発散の薬性で,活動の亢進を鎮めます.

 「健脾養陰」の役割の脇役は「山薬」です.甘味と渋性による補益・保護の薬性で,「脾」系に作用し「陰」の補給を助けます.「脾」系は飲食物から栄養と水分を吸収する消化器系です.補佐役「茯苓」も「脾」系に作用し,淡味による排水の薬性で,消化吸収の負担を軽減します.
▲up
No.44 心身を浄化する漢方処方「温胆湯」
 「温胆湯」という漢方処方は,唐代の総合医学書『千金方』を原典として,宋・元・明・清代にわたる加減処方の展開を経て現在に至る,「化痰」の代表処方のひとつです.「痰」は現代的な意味での気道に生じる痰だけでなく,体内のあらゆる流通経路に蓄積してじゃまになる病理産物を広く表します.全身の「痰」を無と化す(解消する)ことが「温胆湯」の目的で,3薬効の生薬構成によって実現されています.

 「燥湿化痰」という薬効のための配合生薬は「半夏」・「陳皮」・「茯苓」・「生姜」・「炙甘草」です.宋代に「二陳湯」という独立処方になった組合せです.「脾」(消化器系)への作用が共通で,辛・苦・淡・甘味の生薬が有する発散・乾燥・沈降・排水・補益の薬性で,余剰水分(「湿」)を無くし,消化器系の負担を軽減し,吸収機能を健全に保ち,「痰」をもとから絶ちます.

 「清熱化痰」という薬効のための配合生薬は「竹筎」です.「胆」への作用が特徴です.「胆」は現代的な胆道系だけでなく,「肝」と表裏をなす器官として,自然な感情を素直に行動に表すための自律機能調節系の一部と考えます.寒涼・滑性による清浄化・抑制・鎮静の薬性で,「胆」機能を失調させる「痰」の欝積を一掃し,心身の不安・焦燥・興奮・過熱を鎮めます.

 「破気化痰」という薬効のための配合生薬は「枳実」です.寒涼性とともに苦味に特有の沈降の薬性で,緊張・痙攣を解き,機能連携と流通の障害を打破し,「痰」の除去を助けます.
▲up
No.43 自律機能系の興奮・過熱を鎮める処方
 「竜胆瀉肝湯」という漢方薬は,金・元・明・清代を経て生薬構成が確立された「瀉肝火」の代表処方です.日本では,主に尿路感染症に適応する処方として知られていますが,本来の適応対象はより広範です.「肝」は現代的な肝臓だけでなく,心身の活動/休養などの態勢転換のため働く自律機能調節系に相当し,調節されるべき器官・組織の機能亢進や炎症で,上気・紅潮・発赤など,火が燃え上がるように現れる心身の興奮・過熱症状の解消が目的です.3薬効の生薬群から構成されます.

 「清熱瀉火」という薬効を発現させるために配合された生薬は,「竜胆」・「山梔子」・「黄芩」です.「肝」を中心に作用し,寒涼性に加えて苦味をもつ生薬に特有な清浄化・抑制の薬性が共通です.自律機能系の器官・組織の亢進や炎症を抑え,心身の興奮・過熱を鎮めます.

 「清熱利湿」という薬効を発現する生薬は,「木通」・「車前子」・「沢瀉」です.広範な系統に作用し,寒涼性・滑性に苦味・淡味を併せ持つ生薬から生じる清浄化・排水の薬性が共通です.各系統の器官・組織からの熱の放散の障害になる停滞水分の除去を促進します.

 「滋陰養血」という薬効を発現する生薬は,「生地黄」・「当帰」です.甘味の生薬が有する補益・保護の薬性が共通です.自律機能系の亢進や炎症の継続で失われる,各器官・組織へのゆったりした血流による休養過程の回復を助け,栄養素と水分の消耗を防ぎます.
▲up
No.42 人体の自律機能を活発化する漢方処方
 「逍遥散」という漢方薬は,日本で生理不順や更年期障害に適用する「加味逍遥散」のもとになった,宋代から知られる「調和肝脾」の代表処方です.「肝」は現代的には自律機能調節系,「脾」は消化器系に相当し,心身の態勢転換リズムの失調に関連する広範な適用対象があります.3薬効の生薬群から構成されます.

 「疎肝解欝」という薬効を発揮させるために配合された生薬は「柴胡」・「薄荷」です.「肝」に作用するのが共通で,芳香・軽質の生薬に特有な昇浮・発散の薬性があります.これは,心身の態勢転換の命令を脳から全身の隅々の器官・組織にまで波及させる働きを活発化し,自律機能の連携の疎通を良くし,ストレスの発散,抑欝状態の解消にもつながります.

 「養血柔肝」という薬効を発揮させるために配合された生薬は「当帰」・「芍薬」です.「肝」に作用するのがやはり共通ですが,甘・酸味が有する補益・保護の薬性があります.末梢血流を増やして栄養供給を十分にすることで,各器官・組織が心身の態勢転換の命令に対して無理なく柔軟に応じられるようにします.

 「健脾益気」という薬効を発揮させるために配合された生薬は「白朮」・「茯苓」・「炙甘草」・「生姜」です.「脾」に作用するのが共通で,甘味による補益と,苦・淡・辛味による除湿の薬性が,機能増進と負担軽減につながります.自律調節を受ける器官であり,栄養供給源の役割を担っている消化器系を健やかにします.
▲up
No.41 「緩補」を基礎にした「峻補」の漢方処方
 「十全大補湯」は,日本でも広範に応用される有名な漢方処方です.宋代の公定書『和剤局方』に収載されたのが最初で,「気血双補」 の代表処方のひとつです.やはり同書を出典とする,「気」と「血」を緩やかに補う「緩補」の 2処方を合体し,さらに薬効を促進する生薬配合で,極度の衰弱と消耗も力強く回復できる「峻補」の処方とさえ呼ばれる漢方薬です.

 「益気健脾」という薬効を発現させるために配合された生薬は,「人参」・「白朮」・「茯苓」・「炙甘草」で,「四君子湯」という独立処方としても使われます.薬性としては,「脾」の系統(消化器系)への作用が共通で,甘味の補益性で「気」(機能の活発さ)を補い,苦味の乾燥性と淡味の排水性により胃腸の負担を軽減し,栄養素の消化吸収を改善し,体力を高めます.

 「養血調肝」という薬効を発現させるために配合された生薬は,「熟地黄」・「当帰」・「芍薬」・ 「川キュウ」で,「四物湯」という独立処方としても使われます.薬性としては,「肝」(自律機能 調節系)への作用が共通で,甘味の補益性と 酸味の収斂性で「血」(実質的な血流量)を補い,辛味・芳香の疎通性により血行停滞を解消し,末梢組織への絶え間ない栄養供給を支え,無理なく心身の態勢転換ができるようにします.

 さらに配合された「黄耆」・「肉桂」は,甘味・辛味・温熱性による昇浮・振奮・鼓舞の薬性をこの処方に加え,2薬効の発現を盛んにし,隅々まで速やかに波及させる力を与えます.
▲up
No.40 胃腸に効く薬性を結集させた漢方処方
 「香砂六君子湯」は,本場中国では広く知られている,「四君子湯」の高度に進歩した加味処方です.「四君子湯」は宋代の公定書『和剤局方』に収載された「益気健脾」の基本処方で,明代の書物では,2味加えた「六君子湯」の構成が確立され,さらに加味を重ねた数多くの処方のうち,「香砂六君子湯」の現在の形が,中国漢方の教科書に載るほどの名処方になりました.胃腸などの消化器系(「脾」)を3種類の薬効で健やかにする8生薬で構成されます.

 「益気健脾」の薬効を発揮する生薬が「党参」・「白朮」・「炙甘草」です.薬性としては,「脾」に作用するのが共通で,甘味による補益・滋養性があります.消化器系の組織を養って,「気」(機能の活力)を穏やかに補うことにより,消化吸収能力を着実に高める効果があります.

 「去湿健脾」の薬効を発揮する生薬が「茯苓」・「白朮」・「半夏」・「陳皮」です.同じく「脾」への作用が共通で,淡味による浸透・排水性,苦味による乾燥性,辛味による発散性で,消化管内・組織間に停滞・貯留した不要水分(「湿」)を除去し,消化器系の負担を軽減します.

 「理気健脾」の薬効を発揮する生薬が「木香」・「縮砂」・「陳皮」・「半夏」です.やはり「脾」への作用が共通で,芳香による賦活性,辛味による発散・疎通性,苦味による抑制・緩解性の組み合わせで,「気」の流れに停滞をなくし,消化管運動・消化液分泌の連携を正常化し,リズムを快調にし,食欲増進にも役立ちます.
▲up
No.39 皮膚・粘膜に活力を与える薬性
 人体の表面をおおう皮膚・粘膜は,単なる均一な細胞層ではなく,分泌腺などの付属器や免疫系の自由細胞を内包し,血管と神経を内に張りめぐらし,人体の保護・免疫・適応の機能を担っている器官です.元代(14世紀)の書物に記載された「玉屏風散」は,皮膚・粘膜の器官の活力(「衛気」)を補い,本来の機能を回復する漢方処方です.3生薬による2薬効の組合せでこの目的を実現させています.

  「益気実衛」の薬効のために用いられる生薬 は「黄耆」です.薬性としては,甘味が有する補益性に温熱性が加わって昇浮性を生み出し,体内から「気」(エネルギー)を盛んに湧き上がらせ,全身に送り届ける作用につながります.補佐的に配合される「防風」は,辛味の昇浮・発散性と甘味の緩和性で,軽度な体表血管の拡張と発汗促進を生じ,感染・アレルギー・寒冷などにともなう皮膚・粘膜の過剰反応を解除すると同時に,「黄耆」の作用を特に皮膚・粘膜へと集中させて「衛気」を充実させます.

  「益気健脾」という薬効の生薬は「白朮」です.甘味の補益性,苦味の乾燥・排水性,温熱性,「脾」に重点の薬性から,消化器系の機能条件を整えつつ,エネルギー源になる栄養素の供給を活発化して,下支えの役割を果たします.

 以上のように,「玉屏風散」で皮膚・粘膜の器官の活力が旺盛に保たれ,外から侵入する病原体・異物・温度変化に,機敏で手際よい対処・適応ができ,健康の維持に役立ちます.
▲up
No.38 湧き上がる活力を全身に送り届ける薬性
 胃腸の機能を高めて体力を回復する漢方処方として「補中益気湯」があります。これは、金代(13世紀)の李東垣によって考案された処方で、現在も、最も有力な「益気剤」として広範に活用されています。成分生薬として、特色の違う2種類の「益気薬」を巧みに組み合わせた、独特な処方構成になっています。

 「益気昇陥」の薬効を発揮する生薬が「黄耆」で、「補中益気湯」の主成分です。薬性としては、甘味に特有な補益・滋養性に温熱性が加わり、昇浮性も生み出しているのが特徴です。「気」(エネルギー産生の活力)を旺盛にすると同時に、絶え間なく下から上へ、内部から表面へ向かう「気」の流れ(エネルギーを全身に波及させる機能)を支え、心身の原動力・耐久力・抵抗力を維持し、「下陥」(神経・筋肉の緊張低下・無力症)の改善にも役立ちます。「升麻」・「柴胡」は、辛味・芳香・軽質に由来 する昇浮性で、「益気昇陥」を補佐します。

 「益気健脾」の薬効を発揮する生薬が「人参」・「白朮」・「炙甘草」で、主成分の次に重要な成分です。薬性としては、甘味に特有な補益・滋養性に温熱性が加わり、「脾」(消化器系)に重点的に作用します。「気」を旺盛にして、特に「脾」の機能を高める結果、エネルギー源が消耗しないよう、効率的な栄養素の消化吸収を促進できます。「陳皮」は辛味・芳香による発散・疎通性の刺激で、「当帰」は甘味による滋養・緩和性の働きで、消化器系の機能失調を防ぎ、間接的に「益気健脾」を補佐します。
▲up
No.37 過熱や脱水を防ぎつつ活力を高める薬性
 心身のあらゆる活動にエネルギーは必要です.エネルギーの産生には熱の産生が伴い,体温の維持に役立っているのですが,エネルギー産生が亢進し過ぎると,過剰な熱を発汗により体外に放散し続けなければならず,脱水や熱中症などに陥る危険性もあるわけです.「生脈散」は今から約800年前(金代)に考案された漢方薬で,栄養素・水分代謝のバランスを保ちながら,エネルギー産生を力強く促進できる,「気陰双補」の代表処方です.3つの成分生薬による,主に「心」や「肺」系統に対する2つの薬効を組み合わせた処方構成です.

 「益気救脱」という薬効のために用いられている「生脈散」の成分生薬は「人参」です.薬性は,甘味に特有な補益・滋養性に温熱性が加わり,「気」(エネルギー産生・活動の働き)を旺盛にする効果につながり,「脱」(衰弱による虚脱状態)から回復させる効力もあります.「五味子」という成分生薬には,酸味に特有な収斂性で,「気」が消耗しないよう保護する効果があり,「益気救脱」の補助になっています.

 「滋陰生津」という薬効のために用いられている成分生薬は「麦門冬」です.甘味に特有な補益・滋養性に寒涼性が加わり,「陰」(栄養素の蓄え・休養の働き)の不足をやさしく癒す効果につながり,「津液」(有効活用できる体内水分)を十分に保持する効能もあります.「五味子」は,同じく酸味に特有な収斂性で,「陰」と「津液」も消耗しないよう保護する効果があり,「滋陰生津」の補助にもなっています.
▲up
No.36 神経を休養させて心臓をいたわる薬性
 「天王補心丹」という漢方薬は,元代の文献に原型処方の記述がありますが,現在一般に応用されるのは,明代の書物に記載された改良処方です.多様な薬性を内包させた複雑な生薬構成を存続しつつ,主要な薬性の生薬ほど相対的に量を多くして,配合にメリハリをつけたのが特徴で,「滋養安神剤」の代表処方のひとつとして確立されています.

 「天王補心丹」の構成生薬のうち,「生地黄」・「麦門冬」・「天門冬」・「当帰」は,体内の「心」と「腎」の系統を中心に作用し,甘味の生薬に共通する滋養・補益の薬性があり,「滋陰補血」の薬効につながります.関連の組織の「陰血」の要素(栄養と潤い・休養の働き)の不足を改善する効果の一環として,脳の興奮性や心拍を適度に抑制する生来の仕組みを自然に回復させます.さらに,「玄参」・「五味子」・「人参」・「茯苓」・「丹参」・「桔梗」を少量配合することで,苦・鹹・酸・淡・辛味の多様な薬性がうまくかみ合って,円滑な改善と回復に役立ちます.

 「酸棗仁」・「柏子仁」は,「心」の系統に作用するのが共通で,甘味と酸味の生薬が有する滋養・補益の薬性が,とりわけ,神経系の鎮静・安定の効果のみにつながり,「養心安神」の薬効をもたらします.「神」の働き(意識・感情・思考など,広義の精神の働き)を安定させ,不眠・多夢・焦燥・不安・動悸などの解消に役立ちます.「遠志」・「丹参」・「五味子」・「人参」・「茯苓」の少量配合で,多様な薬性がかち合うことなく,鎮静効果が増補されます.
▲up
No.35 ぐっすり眠って活力を養うための薬性
 「帰脾湯」という漢方処方は,宋代の文献に最初の記載があり,その後の元・明・清代に適応症と構成生薬が追加・補完され,広範に活用できる「気血双補」の代表処方のひとつとして確立された漢方薬です.2つの薬効を連携させるため,2つの処方を組み合わせたような構成になっています.

 「帰脾湯」の構成生薬のうち,「人参」・「黄耆」・「白朮」・「茯苓」・「甘草」は,「脾」の系統(消化器系)に作用するのが共通で,甘味の生薬が有する補益・滋養の効果で,胃腸機能を回復します.「木香」は,辛味・芳香の刺激による鼓舞・賦活の効果で,胃腸の調子を整えて,食欲を増進します.これらの生薬の効果を総合すると,「補気健脾」の薬効が得られます.飲食物から栄養素を効率よく吸収し,組織の構成材料を確保しつつ,エネルギー産生を高め,心身の盛んな活動の仕組みを回復します.

 「当帰」・「竜眼肉」・「酸棗仁」は,「心」の系統(中枢神経系)に作用するのが共通で,甘味の生薬が有する補益・滋養の効果で,各組織の栄養状態を改善し,脳の興奮性を自ら抑制する働きを回復します.「遠志」は,辛味の刺激による発散・疎通の効果で,滋養・鎮静作用を行き届かせる助けになります.これらを総合すると,「補血養心」の薬効が得られます.心身の安らかな休養の仕組みを回復することにより,ゆったりした血流で組織へ十分に栄養供給でき,深い睡眠,精神・情緒の安定,記憶力の維持,心拍の安定につながります.
▲up
No.34 喘息に適用される2系統の薬性
 呼吸困難・呼吸促迫・喘鳴など,広い意味での喘息の症状をともなう疾患・病態の治療や改善に役立つ生薬を,漢方では「平喘薬」と呼び,薬性の異なる2系統に分類しています.

 「蘇子」・「杏仁」・「款冬花」・「旋覆花」・「紫オン」・「前胡」・「馬兜鈴」・「テイレキ子」・「桑白皮」・「半夏」・「厚朴」などの生薬は「降気平喘薬」と総称されます.苦味・重質・寒涼などの生薬に特有の沈降の薬性があり,主に「肺」系の組織に作用します.体内で,下がるはずのものが下がらない原因となる,筋肉の過剰な緊張・収縮・痙攣を抑制する効果で,気管支を拡張し,気道の通過障害を軽減する薬効につながります.「蘇子降気湯」・「定喘湯」などの方剤に配合され,喘息症状を抑え,発作が起こらないようにしていく目的で活用されています.

 「蛤カイ」・「海馬」・「紫河車」・「冬虫夏草」・「補骨脂」・「胡桃」・「山茱萸」・「五味子」・「沈香」・「磁石」などの生薬は「納気平喘薬」と総称されます.鹹・甘・辛・酸・渋味の広範な生薬の属性からもたらされる補益と摂納の薬性があり,「腎」に作用することが共通です.「腎」系に属する泌尿・免疫・内分泌・神経系の組織を養い,体液調節から呼吸調節まで基礎的な機能を改善し,外から清気をしっかり取り入れてエネルギー産生に供給できるよう,呼吸器系の能力を根本的に回復させる薬効につながります.「人参蛤カイ散」・「参茸丸」・「八仙丸」などに配合され,喘息症状を起こす人の,主に緩解期の確実な体質改善に役立ちます.
▲up
No.33 咳を止める3系統の薬性
 漢方では,多種多様な生薬の中に,咳止めの薬効につながる3系統の薬性を見出しています.これらを使い分けたり,組み合わせることで,咳の症状を伴う病態・体質を,巧みに無理なく治療・改善し,細心にバランスをとって副作用を予防しています.

 「麻黄」・「杏仁」・「桔梗」・「前胡」・「旋覆花」・「牛蒡子」・「蘇子」・「桑葉」などは「宣肺止咳薬」と総称されます.薬性として,辛味に特有の発散性と,苦味に特有の沈降性があります.広く全身にものを宣散し,下がるべきものを粛降させる,「肺」系の本来の生理作用の流れを回復し,咳反射亢進の緊張状態を発散・解除し,咳を止めます.「三拗湯」・「麻杏甘石湯」・「桑菊飲」など,止咳方剤の主要成分です.

 「五味子」・「五倍子」・「烏梅」・「訶子」・「銀杏」・「南天実」・「胡桃」・「山薬」などは「斂肺止咳薬」と総称されます.酸・渋味に特有の収斂性があります.宣肺とは反対方向の薬性で,表面を引きしめ,無用な放散・漏出・消耗を抑え,組織を保護して落ち着かせ,咳を止めます.「小青竜湯」・「生脈散」の補佐的配合成分です.

 「麦門冬」・「百合」・「黄精」・「百部」・「紫オン」・「款冬花」・「甘草」・「蜂蜜」などは「潤肺止咳薬」と総称されます.甘味と一部の辛味に特有の滋潤性があり,粘液不足・剥離・扁平化した気道粘膜を改善・修復し,被刺激性を少なくし,咳を止めます.「麦門冬湯」・「養陰清肺湯」・「八仙丸」など,体質改善的な方剤の成分です.
▲up
No.32 感染症に適用される2系統の薬性
 ウイルス・細菌などによる感冒やその他の感染症において,人体はそれらの病原体を攻撃・排除する目的で,発熱と炎症を起こします.しかし,その過程で起こる反応がすべて,人体に有利で,病原体に不利な条件を与えるとは限りません.発熱のための皮膚血管の収縮による放熱抑制は,体表の免疫を手薄にし,代謝の活発化による産熱亢進は,内臓・筋肉の消耗・疲弊につながります.漢方には,これらを調整する豊かな知恵と手段があります.

 「麻黄」・「桂枝」・「細辛」・「紫蘇」・「荊芥」・「防風」・「白シ」・「辛夷」・「生姜」・「葱白」・「芫スイ」などの生薬は「辛温解表薬」と総称されます.辛味・芳香・軽質・淡薄の生薬に特有の発散性・昇浮性に加えて,温熱性の薬性に由来する,強力な血管拡張・発汗促進の作用で,不必要で無益な発熱を放散に導き,皮膚・粘膜の循環を復旧させることで,体表の免疫システムを万全にし,病原体を追い込む助けになります.「麻黄湯」・「桂枝湯」・「葛根湯」に配合され,主に,悪寒の強い場合に活用されます.

 「金銀花」・「連翹」・「薄荷」・「牛蒡子」・「蝉退」・「桑葉」・「菊花」・「葛根」・「柴胡」・「升麻」・「浮萍」などの生薬は「辛涼解表薬」と総称されます.辛味・芳香・軽質・淡薄の生薬に特有の発散性・昇浮性に加えて,寒涼性の薬性に由来する,軽度の発汗促進,熱代謝の抑制のほか,消炎・抗菌・抗ウイルスなどの作用があります.「銀翹散」・「銀翹解毒片」・「桑菊飲」に配合され,主に,熱感の強い場合に活用されます.
▲up
No.31 蓄積された不要産物を除去する薬性
 現代医学的な意味での痰は,気道に紛れ込んだ病原体や異物を破壊・処理する仕組みが働く結果生じる病理産物です.漢方における「痰」は,気道だけでなく,いかなる流通経路にも発生する,より広範な組織活動の結果として体液中に蓄積される不要産物の総称です.順調に搬出・除去されなければ人体にとって有害で,諸器官・内臓の働きを障害する原因にもなると考えます.その粘稠と混濁の外観的な特徴から,漢方は「痰」の現象に,体液の濃縮をもたらす,組織活動の過程に内在する機能の失調・停滞(「気滞」)を見抜いています.

 「半夏」・「天南星」・「p角」・「白芥子」・「蘇子」・「莱フク子」・「生姜」・「貝母」・「竹ジョ」・「カ楼」・「冬瓜仁」・「前胡」・「桔梗」・「ボッセイ」・「海藻」・「昆布」・「海テツ」・「海蛤殻」・「海浮石」・「牛黄」などの生薬は,「痰」を無と化す(化痰)作用があります.辛・苦・淡・甘・鹹味・芳香による,発散・乾燥・浸透・潤滑・軟化の多彩な薬性を利用し,人体各所の「痰」を除去します.

 「陳皮」・「枳実」・「厚朴」・「沈香」・「薤白」・「紫蘇」は,「気滞」を復調させる(理気)作用があります.辛味・芳香に特有の賦活・疎通効果と,苦味・重質に特有の抑制・鎮静効果の,双方向の薬性を利用し,「痰」の発生を助長している,各組織活動の停滞を解消するための機能調整の手段として使えます.「温胆湯」・「蘇子降気湯」・「半夏厚朴湯」・「カ楼薤白白酒湯」などの処方は,漢方流の洞察に基づいて化痰薬に理気薬を配合する知恵の結晶です.
▲up
No.30 冷えきった人体機能を復活させる薬性
 漢方では,寒冷が手足・体幹・頭頸・関節・内臓など,各部に悪影響を及ぼしている状態を「寒証」と表します.体外から寒冷をもたらす気候・環境・飲食物が「寒証」の原因ですが,体内のエネルギー代謝の減退(「陽虚」)があると,「寒証」を起こしやすい体質になります.

 「呉茱萸」・「茴香」・「高良姜」・「草豆ク」・「草果」・「ヒ撥」・「胡椒」・「山椒」・「辣椒」・「艾葉」・「烏薬」・「細辛」・「桂枝」・「生姜」・「葱白」・「白シ」・「烏頭」・「麻黄」・「白芥子」・「硝石」などの生薬は,「寒証」を解消する(散寒)作用があります.共通の薬性は,温熱性とともに,辛味の属性としての発散の効果が強力です.服用すると人体各部を刺激し,血管拡張などで寒冷の影響を分散的に解消でき,「呉茱萸湯」・「安中散」・「小建中湯」・「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」・「温経湯」・「陽和湯」に応用されています。

 「附子」・「肉桂」・「乾姜」・「丁香」・「補骨脂」・「益智仁」・「蛇床子」・「仙茅」・「淫羊カク」・「韮子」・「巴戟天」・「菟絲子」・「肉ジュ蓉」・「杜仲」・「鎖陽」・「沙苑子」・「胡桃」・「続断」・「狗脊」・「鹿茸」・「海狗腎」・「蛤カイ」・「海馬」・「海蝦」・「紫河車」・「冬虫夏草」・「九香虫」・「陽起石」などの生薬は,「陽虚」の回復を助ける(助陽)作用があります.共通の薬性は温熱性で,そのほか,辛味の属性としての鼓舞の効果,鹹・甘味の滋養・補益の効果があります.エネルギー代謝を支える機能を活発化して,寒冷に耐える力をつけることができ,「八味地黄丸」・「海馬補腎丸」・「至宝三鞭丸」の名処方として結実しています.
▲up
No.29 脳卒中の引き金になる「内風」を防ぐ薬性
 漢方では,めまい・頭のふらつき・頭のゆれ・激しい頭痛・手足のふるえ・立っていられない・まっすぐに歩けない・筋肉のひきつり・けいれん・しびれ・まひ・ろれつがまわらない・舌の歪み・舌のふるえなどの症状は「内風」の兆候と捉えます.体内から生じた風が激しく吹き荒れて,組織がむりやり揺り動かされているかのような様相を象徴する名称で,現代医学的には,脳内の過剰興奮・脳血管の痙攣などが起こっている状態に相当します.脳血管障害(脳卒中)の前駆症状の場合も,他の疾患の随伴症状の場合もあります.

 「釣藤鈎」・「天麻」・「白シツ藜」・「菊花」・「桑葉」・「羚羊角」・「牛黄」・「石決明」・「貝歯」・「玳瑁」・「地竜」・「白僵蚕」・「全蝎」・「蜈蚣」・「代赭石」・「磁石」などは,「内風」を止める(熄風)作用があります.薬性としては,体内の「肝」の系統に働くのが共通で,鹹味・苦味・重質の生薬に特有の抑制効果,甘味の生薬の緩和効果,辛味・軽質の生薬の発散・疎通効果などで,鎮静・鎮痙・降圧につながります.「釣藤散」・「抑肝散」・「降圧丸」に活用されています.

 「地黄」・「山薬」・「山茱萸」・「枸杞子」・「黒豆」・「女貞子」・「旱蓮草」・「白芍薬」・「阿膠」・「亀板」・「鼈甲」・「淡菜」・「鶏子黄」などは,「内風」を起こす素因になる「陰虚」を癒やす(滋陰)作用があります.薬性としては,甘・鹹・酸味の補益・滋養・保護効果から,心身を休養させて,神経系を自ら抑制する仕組みの回復につながります.「杞菊地黄丸」に活用されています.
▲up
No.28 血液の流入と還流をよくする薬性
 人体における血液の役割は,動脈性血液であれば,組織に酸素・栄養素・水分など必要物を供給すること,静脈性血液であれば,二酸化炭素・代謝産物・老廃物など不要物を搬出することです.動脈性血液の流入がよくないと,組織への必要物の供給が不足します.これを漢方では「血虚」と呼びます.一方,静脈性血液の組織からの還流がよくないと,搬出が停滞して不要物がたまります.これを漢方では「オ血」と呼びます.ひと言で血流をよくするといっても,流入と還流の両要素を常に視野に入れて用薬するのが漢方流です.

 「熟地黄」・「当帰」・「白芍薬」・「何首烏」・「阿膠」・「竜眼肉」などの生薬は,薬性として,甘味に特有の滋養・補益,酸味に特有の収斂・保護の効果があり,組織へ必要物を供給する役割を担わせるべき血液を養う(養血)作用につながります.人体に本来備わる休養の仕組みを回復させることによって間接的に,特に不足しがちな皮膚や内臓などへの動脈性血液の流入を主に増加させ,「血虚」を改善します.

 「丹参」・「川キュウ」・「赤芍薬」・「紅花」・「桃仁」・「牡丹皮」・「牛膝」などの生薬は,薬性として,苦味に特有の抑制・浄化,辛味に特有の発散・疎通の効果があり,組織から不要物を搬出する血液の流れを活きかえらせる(活血)作用につながります.循環器系における無用な緊張・痙攣を抑制し,末梢血管を拡張し,静脈性血液の還流を正常化して,「オ血」を解消します.
▲up
No.27 筋肉をしっかりさせる薬性
人体における筋肉の役割は,各部の構造を保ち,各種の運動を起こすことです.これらの役割を万全に果たせるように,心身の態勢に応じて神経系が連携し,それぞれの筋肉の緊張性を適度に高める仕組みが働いています. 「升麻」・「柴胡」・「葛根」・「黄耆」などの生薬は,辛・甘味・芳香・軽質の生薬に特有の昇浮性という薬性をもち,垂れ下がった筋肉を引き上げる(昇提)作用があります.興味深いのは,これらの生薬が末梢血管の拡張作用をもつことで,おそらく同様に,末梢神経への作用で筋肉の緊張性を高めると考えられます.

  「人参」・「党参」・「白朮」・「黄耆」などの生薬は,薬性の尺度としては,滋養性・補益性の代名詞である甘味が共通で,心身両面の活動を盛んにすることで,元気とエネルギーの蓄えを増やす(益気)作用があります.大脳皮質・脳幹など中枢神経からの活発な働きかけを促して,筋肉の緊張性を高めると考えられます.

 「補中益気湯」という漢方薬は,両方の作用がある「黄耆」を多量に主薬として用い,さらに益気作用がある「人参」・「党参」・「白朮」を適量,さらに昇提作用がある「升麻」・「柴胡」を少量ずつ配合した処方です.内臓平滑筋・括約筋・抗重力筋などに本来の緊張性を回復することで,胃下垂・脱肛・失禁などのほか,筋肉のたるみ・弱まりが関与する病態・症状を改善し,健康と美容の増進に役立ちます.
▲up
No.26 活発で安定した精神状態のための薬性
 脳は朝日の刺激を受けると,目覚め・起床・身支度・朝食などの過程で,神経系の興奮性を適度に高めます.そこで,やる気や意欲がわくと同時に,活動の持続に耐え,活動の待機状態の緊張にも耐えられる,心身の準備態勢が整います.この仕組みがよく働かないと,日内リズムが正しく刻めず,寝起きが悪い・やる気がでない・ゆううつ・自然な感情や興味がわかない・作業が続かない・安易なほうへ逃避する・イライラ・きれやすい・不安感・よく眠れないという悪循環につながります.現代医学では,この仕組みで重要な役割を果たしているセロトニン神経の機能を人工的に一時回復させ,関連の病態を治療します.

 漢方でこのような病態の改善に使われる生薬のうち,「柴胡」・「香附子」・「欝金」・「薄荷」・「紫蘇」などは,薬性の尺度としては芳香が共通の要素で,嗅覚を通しても体感できる快い刺激が,服用により神経系を賦活して,心身のリズムを自然に回復させることで,感情の抑欝を解く(解欝)作用があります.ジャスミン・ソケイ・サフランなどのハーブもこの部類です.

  「酸棗仁」・「柏子仁」・「夜交藤」・「竜眼肉」・「百合」・「大棗」・「人参」・「五味子」・「蓮子」・「竜骨」・「牡蠣」などは,薬性の尺度としては甘味・酸味・鹹味が特徴で,神経系を滋養し,代謝の過亢進と無用な興奮を抑制し,精神を安定させる(安神)作用があります.食品でも,穀物ならコムギ・ アワ,魚介類ならカキ,肉類ならハツが,この作用をもつものとして役立ちます.
▲up
No.25 オーバーヒートを抑える薬性
 現代医学的に熱があると言えば,体温上昇を表しますが,漢方における「熱」は,感染症や熱中症などの際の発熱だけでなく,神経系の興奮,内臓の機能亢進,局所の炎症などで,熱っぽい状態や熱性を帯びた症状をともなう場合を広く含みます.その上で,病原体・異物・感受刺激に対する心身の拒絶反応として生じた熱(「実熱」)と,心身を休養させるための体内の仕組みの破綻や弱まりから生じた熱(「虚熱」)に分類されます.適用される生薬も「苦寒薬」と「甘寒薬」の2種に分類されます.

 「苦寒薬」は苦味と寒涼性をもつ生薬で,「黄ゴン」・「黄連」・「黄柏」・「竜胆」・「茵チン蒿」・「牡丹皮」・「赤芍薬」・「玄参」・「知母」・「山梔子」・「連翹」・「板藍根」・「大黄」などです.「苦寒薬」は清浄化と抑制の薬性をもち,有害・不要物の排除や過亢進の鎮静効果が強力で,主に,激しい「実熱」の解消に使われます.タンポポ・スミレ・オミナエシ・アブラギク・アロエ・ニガウリ・フキなどの草花や野菜も「苦寒薬」として役立ちます.

 「甘寒薬」は甘味で寒涼性をもつ生薬で,「沙参」・「玉竹」・「麦門冬」・「天門冬」・「百合」・「西洋参」・「生地黄」・「旱蓮草」・「女貞子」・「亀板」・「猪髄」などです.「甘寒薬」は滋養性と抑制の薬性をもち,栄養素や水分の消耗を癒すことで,無用な代謝を防ぐので,わけもなく長引く「虚熱」の根本改善に活用されます.スイカ・ナシ・カキ・ナス・キュウリ・トウガン・レンコン・ゴボウ・ハクサイ・ホウレンソウ・ハトムギ・コムギ・アワなどの果物・野菜・穀類も「甘寒薬」として補助になります.
▲up
No.24 夏の体の水分調節を助ける薬性
 暑い季節は汗をかくことが多いので,脱水を起こさぬよう十分な水分補給が必要です.一方,のどが渇くからと惰性的に飲み物を取り過ぎていると,胃腸やその他の器官に負担がかかり,体液代謝の流れが停滞し,水分がだぶついているのに,必要な所に届かないことにもなりかねません.漢方では,消化器から吸収され全身に送られ,有益に活用されている水分を「津液」と呼び,一方,体液代謝の流れから外れ,消化管内・組織間などに停滞して役に立たない水分を「湿濁」と表します.

 「沙参」・「玉竹」・「西洋参」・「太子参」・「人参」・「麦門冬」・「生地黄」・「五味子」・「烏梅」などの生薬は,薬性の尺度として甘味や酸味をもち,各組織を保護・収斂する結果として「津液」を生み出す(生津)作用があります.「生脈散」という処方に活用されています.トマト・スモモ・モモ・アンズ・レモン・ライチ・サ-ジ・ナシ・ミカンなどの果実にもこの作用が認められています.

 「カッ香」・「蘭草」・「香ジュ」・「荷葉」・「白扁豆」・「蒼朮」・「厚朴」・「白豆ク」・「草豆ク」・「草果」などの生薬は,薬性の尺度としては芳香があり,内臓を刺激し,代謝の活発化により「湿濁」を無と化す(化湿)作用があります.「カッ香正気散」という処方の成分として活用されています.バジル・オレガノ・カルダモン・サンショウなどのハーブにもこの作用が認められています.

 このように漢方には,水分の過不足を是正するのに役立つ知識と手段が完備しています.
▲up
No.23 関節痛・神経痛・腰痛を解消する薬性
 上下肢・体幹・頭頸部のいずれかの部位の痛み・しびれ・こわばり・ひきつり・重だるさ・運動制限の症状は,漢方では,「邪気」が人体内の流通経路(経絡)や運動器(筋骨)に入り込んで障害するためだと捉えます.「邪気」に対抗するのが人体の「正気」で,体内の機能の活発さや組織の栄養状態など様々な要素で支えられる,健康維持の原動力です.「正気」が弱くなると「邪気」が入りやすくなります.

 経絡や筋骨に入り込んだ「邪気」を除去する方法(去邪)に使われる生薬は,「独活」・「秦ギョウ」・「桑寄生」・「五加皮」・「威霊仙」・「防風」・「白シ」などです.辛・苦味・芳香による発散性・乾燥性の薬性から,炎症・欝血・水腫を分散・解消し,痙攣・拘縮を緩和して鎮痛する薬効につながります.アロマテラピーに使われるジュニパー(杜松)やゼラニウム(香葉)も同じ部類に属します.

 経絡や筋骨を堅固に守る「正気」を扶助する方法(扶正)に使われる生薬は,「人参」・「党参」・「黄耆」・「白朮」・「熟地黄」・「当帰」・「芍薬」・「鹿茸」・「巴戟天」・「淫羊カク」・「杜仲」・「続断」・「牛膝」などです.甘・鹹・酸味による滋養性・収斂性の薬性から,栄養素の供給・同化を促進し,無用な動員・異化を抑制し,組織の萎縮・脆弱化・粗鬆化の進行を防ぎます.

 「独活寄生湯」は,去邪の「独活」・「桑寄生」などで痛み・痙攣・炎症を散らすだけでなく,扶正の「党参」・「熟地黄」・「杜仲」・「牛膝」などの配合で,組織の構造的な弱まりに起因する病態の本質的改善に役立つ漢方処方です.
▲up
No.22 感染症・アレルギーに対する薬性
 ウイルスによるかぜなどの感染症でも,花粉などに対するアレルギー性鼻炎の場合でも,くしゃみ・鼻水・鼻づまり・咽喉痛・頭痛・身体痛・悪寒・発熱・咳などの症状は,漢方では,「風」という邪気が「表」(人体の浅表部)に侵入した症候であると現象論的に捉えます.

 「麻黄」・「桂枝」・「紫蘇」・「荊芥」・「防風」・「細辛」・「生姜」・「葱白」・「葛根」・「牛蒡子」・「薄荷」・「桑葉」・「菊花」などの生薬は,薬性の尺度として辛味・芳香・軽質のいずれかが特徴的で,昇浮性・発散性につながり,「風」の邪気を除去して,侵入を受けた「表」の症候を解消する(解表)作用があるとされます.皮膚・粘膜の血管拡張・発汗促進を通して,消炎・鎮痛・解熱・鎮咳・免疫調整効果を得るため,「麻黄湯」・「桂枝湯」・「葛根湯」・「銀翹散」・「小青竜湯」・「麻杏甘石湯」に使われています.

 「黄耆」という生薬は,薬性の尺度として甘味があり,補益性と昇浮性を兼ね備え,「風」の邪気が侵入しにくくなるよう,皮膚・粘膜の機能を支える力(衛気)を養い,「表」の守りを固める(固表)作用があるとされます.皮膚・粘膜の器官系に本来の活発さを回復させ,保護・免疫・適応の働きを正常化することで,病原体の感染を受けにくく,アレルギーを起こしにくくするための体質改善に役立ちます.

 「玉屏風散」は固表の「黄耆」を主薬とした,感染・アレルギー体質改善の代表処方であり,解表の「防風」の配合で,症状の悪化を防ぎつつ,皮膚・粘膜への効きめを良くしています.
▲up
No.21 呼吸器と皮膚に作用する薬性
 胃腸から吸収され,肝臓に蓄えられた栄養素が,エネルギー源や物質原料として動員されるときは,必ず肺循環をいったん経由して,そこで取り込まれた酸素と一緒に全身の組織に送られます.肺循環は活動態勢では,余分な血液を体循環へと絞り出して,物質供給と水分代謝を促進します.漢方では,このように全身に必要な物質・水分・エネルギー・パワーをあまねく行きわたらせる役割を重視し,「肺」をガス交換・体液調節・熱代謝・体表の防衛に関わる機能系として広く捉えています.

 「麻黄」・「紫蘇」・「辛夷」・「蒼耳子」・「細辛」・「薄荷」・「桑葉」・「蝉退」・「浮萍」・「牛蒡子」・「杏仁」・「紫オン」・「前胡」・「桔梗」・「芦根」などの生薬は,薬性としては,辛味または軽質の生薬に特有の昇浮性・発散性が共通で,体表血管の拡張・発汗促進により,あまねく全身に行きわたらせる「肺」の機能を直接的に助ける(宣肺)作用があります.呼吸器や皮膚など,「肺」系の機能を障害する病原体の感染やアレルギーなどによる諸症状の解消に使われます.

 「人参」・「黄耆」・「蛤カイ」・「冬虫夏草」・「胡桃」・「沙参」・「天門冬」・「麦門冬」・「百合」・「玉竹」・「西洋参」・「銀耳」・「燕窩」・「阿膠」・「五味子」・「銀杏」・「烏梅」・「訶子」などの生薬は,薬性としては,甘・鹹・酸・渋味の生薬に共通の補益性・保護性をもち,「肺」が機能を果たすため必要な組織の活力や栄養などの要素を補う(補肺)作用があります.呼吸器や皮膚の疾患の根本改善で「玉屏風散」・「参茸丸」・「生脈散」・「八仙丸」・「養陰清肺湯」に活用されています.
▲up
No.20 心臓と脳に効く薬性
 現代医学における心臓は,単なる血液循環ポンプですが,漢方における「心」は,文字通り「こころ」を生み出す大脳皮質を頂点とした中枢神経系と,それに支配されている心臓を中心とした血液循環系を,機能的に不可分で一体の器官系として表したものです.

 「牛黄」・「麝香」・「竜脳」・「樟脳」・「菖蒲」・「蘇合香」などの生薬は,薬性の尺度としては,強烈な刺激のある芳香や辛味が特徴的で,「心」系を目覚めさせる(醒脳)効果があります.脳に刺激を与え,蘇生・気つけ・意識賦活,または,心臓の拍動をしっかりさせる目的で「六神丸」・「牛黄清心丸」などの成分として使われています.現代医学におけるジギタリスやカンフルなどの強心薬もこの部類です.強心といっても,一時的に力を貸して持ち直させる以上の効果はなく,むやみな反復使用や長期適用の処方への配合は避けるべきです.

 「酸棗仁」・「柏子仁」・「夜交藤」・「小麦」・「五味子」・「蓮子」・「大棗」・「竜眼肉」・「猪心」・「亀板」・「百合」・「麦門冬」などは,薬効の尺度として,緩和・補益の性質の現れである甘味,または,収斂・保護の性質の現れである酸味があり,「心」系を養う(養心)効果があります.神経系や心筋の組織の栄養状態を改善して,脳の興奮を抑制する働きを回復し,深い睡眠,精神・情緒の安定,記憶力の維持,心拍の安定を得る目的で,「天王補心丹」・「生脈散」・「帰脾湯」・「酸棗仁湯」・「甘麦大棗湯」などの成分として使われています.心臓と脳をやさしくいたわるため,長く愛用すべき漢方薬です.
▲up
No.19 胃腸機能を改善する薬性
 胃腸を中心とする消化器系は,漢方においては「脾」と表されます.現代医学的な脾臓とは意味が違い,飲食物から栄養素と水分を消化吸収し組織再生の材料やエネルギー源として供給するシステム全体を象徴する名称です.

 胃腸機能を改善してくれる生薬の「人参」・「党参」・「白朮」・「茯苓」・「ヨク苡仁」・「山薬」・「蓮子」・「牛肉」は,漢方の薬性の尺度としては甘味をもつことが共通で,「脾」を健やかにする(健脾)効果があるとされています.つまり,甘味を代名詞とする,広い意味での補益・滋養の作用で組織を養い,胃腸機能をじっくり根本的に回復させるという意味です.

 やはり胃腸機能を改善してくれるのは同じでも,「カッ香」・「蘭草」・「荷葉」・「甘松」・「陳皮」・「縮砂」・「木香」は,漢方の薬性の尺度としては芳香をもつことが共通で,「脾」を目覚めさせる(醒脾)効果があるとされています.芳香が嗅覚を通して心身に刺激を与えることからも類推できるように,これらの芳香生薬は,この系統への鼓舞・賦活の作用で,胃腸機能を一時的ながら速効的に回復させるのです.

 「香砂六君子湯」という漢方処方は,甘味の「人参」・「党参」・「白朮」・「茯苓」による健脾の薬効で,体内に栄養素と水分を取り入れる胃腸の本来の機能をじっくり根本的に改善していくと同時に,芳香の「陳皮」・「縮砂」・「木香」による醒脾の薬効で,胃腸運動・分泌の活発化を通じて,速効的に胃腸の不調を解消し,食欲を増進させるのにも役立つ漢方薬です.
▲up
No.18 自律神経系の失調を回復する薬性
 自律神経系の役割は,心身の活動/休養,覚醒/睡眠,興奮/安静,高揚/平安,緊張/弛緩など,人体の態勢・状態の転換に合わせて内臓・器官の機能を調節することです.脳内で湧き起こる感情・欲求や日内リズムに適合した身体の態勢を整えるため,自律神経系の媒介により,エネルギー源の肝臓における動員/貯蔵の切り換えが行われます.漢方では,この機能系全体を「肝」と呼んでいます.

 「柴胡」・「薄荷」・「香附子」・「欝金」・「青皮」・「香櫞」・「マイ瑰花」・「素馨花」・「白梅花」などの生薬は芳香・辛味があり,「肝」の機能連携の疎通をよくする効果(疎肝)につながります.強烈な香りや味の成分で「肝」系を刺激して,抑欝した感情を昇華させ,沈滞した心身のリズムを鼓舞し,自律神経系の過剰な緊張を解消し,ストレスを発散させるのに役立ちます.

 「当帰」・「芍薬」・「地黄」・「何首烏」・「桑椹」・「枸杞子」・「女貞子」・「旱蓮草」・「猪肝」・「蟻」などは甘味・酸味があり,「肝」の機能連携における,心身の態勢転換や内蔵機能の切り換えを柔軟にする効果(柔肝)につながります.甘味と酸味の成分に共通な,組織にやさしい保護・緩和の作用で「肝」系を養い,感情の激しい動きを和らげ,自律神経系の過敏な反応を防ぎ,栄養素の無用な動員を防ぎます.

 「逍遥散」とその丸薬製剤「逍遥丸」は,芳香と辛味の「柴胡」・「薄荷」による力強い疎肝の薬効と,甘味の「当帰」と酸味の「芍薬」によるやさしい柔肝の薬効を兼ね備えた名処方です.
▲up
No.17 血液循環を改善する薬性
 "血液をサラサラにする"という表現で,近年,血液の性状と循環を改善する生薬や食物の作用が紹介され,脳梗塞や心筋梗塞の予防に役立つと話題になっています.このような天然物の多くは,漢方では一般に「活血薬」と呼ばれます.「活血薬」には主に辛味・苦味の2種類があり,それぞれ薬性が異なります.

 辛味の「活血薬」は「川キュウ」・「紅花」・「延胡索」・「益母草」などです.薬性理論では,辛味には発散・疎通の効果をもたらす薬性があって,昇(下から上へ)と浮(内から外へ)の方向性があります.力強く押し上げ,爆発的に広く散らすような動きをもたらす薬性です.話題のタマネギ・ニンニクも,この部類に属する薬性をもちます.味覚からもわかる強い刺激が全身に速やかに波及し,末梢血管を拡張させ,各部の血流量を増やして循環を改善します.

 苦味の「活血薬」は「丹参」・「赤芍薬」・「桃仁」・「牛膝」・「大黄」などです.理論では,苦味は抑制・浄化の効果をもたらす薬性があって,降(上から下へ)と沈(外から内へ)の方向性があります.高ぶりをしずめ,戻らず滞るものを元におさめ,かすを落として澄ますような薬性です.興奮・緊張・痙攣・収縮を緩解し,末梢に欝滞している血液を本流へと戻し,各部の本来の血流を回復して循環を改善します.

 「冠心U号方」とその顆粒製剤「冠元顆粒」は,苦味の「丹参」・「赤芍薬」に,辛味の「川キュウ」・「紅花」を配合し,相互に行き過ぎを防ぎながら,両方の薬性を有効活用している処方です.
▲up
No.16 全身の栄養バランスを改善する薬性
 現代社会では,栄養過多による肥満・糖尿病・高血圧などが問題なので,単純に体脂肪・血糖・血中コレステロールなど過剰な栄養素を減らす薬や食物成分の作用ばかり注目されますが,一方で組織の栄養不足をともなう代謝失調が基礎になることに留意すべきです.

 漢方では,顔・舌の血色,肌のつや・潤い,爪・髪の性状と,筋肉・神経・器官の機能状況から,組織の栄養不足を見逃さないようにします.どんなに栄養摂取しても,末梢に送り込む血流が少なければ,組織へ栄養供給が不足し,その意味で「血」の不足と表します.この改善には,「熟地黄」・「当帰」・「芍薬」・「阿膠」・「何首烏」・「竜眼肉」などの生薬の甘味の補益性,酸味の収斂性,辛味の疎通効果を活用した処方「四物湯」・「当帰養血膏」・「帰脾湯」・「十全大補湯」・「参茸補血丸」で,組織への血流を増やし栄養供給を回復します.

 組織に送られた栄養素は,休養態勢では構成要素として蓄えられ,活動態勢ではエネルギー源として血中へ動員されます.このバランスが悪いと,血色よく紅潮ぎみで栄養十分に見えて,実は蓄えが消耗して組織の分解が過熱ぎみの反映で,「陰」の不足と呼ばれます.この改善には,「熟地黄」・「山薬」・「枸杞子」・「亀板」・「鼈甲」・「玄参」・「沙参」・「玉竹」・「麦門冬」・「西洋参」などの生薬の甘・鹹味の滋養性,寒涼性の抑制効果を活用した処方「六味地黄丸」・「杞菊地黄丸」・「八仙長寿丸」・「天王補心丹」・「養陰清肺湯」・「生脈散」で,栄養素の不要な動員を抑え,必要な蓄えを回復します.
▲up
No.15 生命力を生み出す根源を養う薬性
 漢方において「腎」は生命力を生み出す臓器です.現代医学的な意味での腎臓だけでなく,体液のバランスを保つ泌尿器系,遺伝子を子孫へ伝える生殖器系,自己の組織を守る免疫系まで包括し,活気あふれる生命の営みを絶やさず維持する器官系を「腎」と呼んでいます.

 漢方理論によれば,「腎」には生命力を生み出す根源とも言うべき「精」が蓄えられています.この「精」の蓄えが先天的に少なかったり,過労や不摂生によって消耗したり,老齢のために尽きてくると,「腎」に属する各系統の機能の衰えが現れます.小児では,発育不良・運動能力や知能発達の遅れ・夜尿症など,成人では,早期の老化現象・足腰の弱り・夜間頻尿・耳鳴り・めまい・健忘・知能減退・動作緩慢など,女性では,無排卵・無月経・早産・流産・不妊・早期の閉経など,男性では,性欲減退・陰萎・早漏・遺精などです.

 「腎」における「精」の不足を補う薬効をもつ生薬には2種類あります.鹹味のある「鹿茸」・「海狗腎」・「紫河車」・「海参」・「淡菜」・「蛤カイ」・「亀板」・「肉ジュ蓉」はミネラル分を豊富に含み,組織によくしみ込んで蓄えを潤沢にしていく濃厚な滋養性が特徴です.甘味の「熟地黄」・「何首烏」・「阿膠」・「枸杞子」・「胡麻」・「黄精」・「山薬」・「菟絲子」・「沙苑子」・「鎖陽」・「杜仲」・「巴戟天」・「冬虫夏草」は,長期の服用で効く穏和な補益性が特徴です.「至宝三鞭丸」・「海馬補腎丸」・「参茸丸」・「参茸補血丸」は両方の生薬をバランスよく配合した処方です.
▲up
No.14 エネルギー代謝を改善する薬性
 心身のいかなる活動のためにも,生命の維持のためにも,人体の器官や組織を機能させるエネルギーは,飲食物から吸収され蓄えられた栄養素を分解することで産生されます.このエネルギー代謝が弱ると,内臓の働きや体力の減退・冷え症・肥満の原因になります.これは漢方では「陽気」の不足に相当します.

 「陽気」の不足を速効的に補うには「辛温薬」を用います.辛味で温熱性の「附子」・「肉桂」・「乾姜」・「補骨脂」・「益智仁」・「蛇床子」・「仙茅」・「淫羊カク」・「韮子」・「呉茱萸」・「丁香」・「茴香」・「山椒」・「胡椒」・「辣椒」・「大蒜」などです.「陽気」を鼓舞・振奮するとされる「辛温薬」の作用は,ショウガやトウガラシによる刺激的な食感と体が温まる体験からも類推できるように,体内の器官・組織を刺激してエネルギー代謝を激しく活発化させる作用です.「八味地黄丸」・「右帰丸」・「附子人参湯」・「大建中湯」・「安中散」の主要成分として配合されています.

 「陽気」の不足をじっくり補うには「甘温薬」を用います.甘味で温熱性の「人参」・「黄耆」・「鹿茸」・「海馬」・「冬虫夏草」・「紫河車」・「蝦」・「羊肉」・「胡桃」・「肉ジュ蓉」・「鎖陽」・「沙苑子」・「菟絲子」・「巴戟天」・「杜仲」・「続断」などです.「陽気」を培補・充盈するとされる「甘温薬」の作用は,体内の器官・組織を滋養することでエネルギー代謝の本来の活発さを回復する作用です.「補中益気湯」・「玉屏風散」・「十全大補湯」・「帰脾湯」・「至宝三鞭丸」・「海馬補腎丸」・「参茸丸」・「参茸補血丸」に活用されています.
▲up
No.13 「補」と「瀉」の薬性バランス
 漢方には,生薬の薬性の尺度の一種として,「補」と「瀉」の尺度があります.栄養素などの物質面の不足あるいは機能面の弱まり(「虚」と総称される状態)の回復に役立つのが「補」の薬性です.老廃物や病理産物を含めた物質面の過剰・停滞あるいは機能面の亢進・失調(「実」と総称される状態)の解消に役立つのが「瀉」の薬性です.要するに,「虚証」の人に合うのが「補」,「実証」の人に合うのが「瀉」です.

 しかし,たとえば内臓機能の弱まりから老廃物の停滞(虚から実)を生じたり,代謝亢進から栄養不良(実から虚)につながるなど,虚と実の要素は相互に随伴しうるので,実際には両方が多少なりとも混在すると考えます.このため,総体として虚証か実証の一方に診断されても,随伴しうる他方の要素に配慮して,「補」と「瀉」の両方を適度なバランスで配合します.また,一方の薬効の行き過ぎを防ぐ意味で両方を配合することもあります.

 「六味地黄丸」は,心身の休養の仕組みの弱まりによる諸組織の栄養不良(「陰虚」)を回復する「補」の3生薬「地黄」・「山茱萸」・「山薬」に加え,「瀉」の3生薬「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」で,随伴しやすい熱代謝の亢進や水分代謝の失調を解消し,副作用も防げる基本処方として汎用されます.「玉屏風散」は,感染・アレルギー・気候変化による皮膚・粘膜組織の過剰反応を「瀉」の「防風」で解消して,体表組織の本来果たすべき保護・免疫・適応の機能の弱まり(「衛気虚」)を「補」の「黄耆」・「白朮」で症状の悪化なしに回復できる処方構成です.
▲up
No.12 「滑性」という不思議な薬性をもつ生薬
 「滑性」とは文字どおり,滑(すべ)らせる・滑(なめ)らかにする薬性です.つまり,体内に滞ったものを,あたかも滑らせるかのように容易に外に出す,具体的には,主に尿や便の排出を滑らかにする薬効のもとになる薬性です.

 滑性をもつ生薬には,「麻子仁」・「郁李仁」・「冬葵子」・「胡麻」・「馬歯ケン」・「楡白皮」・「昆布」・「蜂蜜」・「滑石」などがあり,素材自体の性状あるいは含有する油分や粘液のためスベスベ・ツルツル・ヌルヌルと手ざわりや食感が滑らかなものばかりで,体に入って生じる薬性も滑性であるということは興味深い事実です.

 便秘・便が少ない・固い兎糞状のコロコロの便などの改善のため,「麻子仁」・「郁李仁」・「冬葵子」の滑性による便の軟化・便通促進の薬効が「麻子仁丸」・「潤腸湯」などの処方に活用されています.尿路系の炎症や結石などによる排尿障害の解消のため,「冬葵子」・「楡白皮」・「滑石」の滑性による排尿促進の薬効が「八正散」・「五淋散」などに活用されています.「冬葵子」・「滑石」の滑性は母乳の分泌不良・排出不全や難産・分娩遅延の改善にも役立つことが知られています.食中毒や皮膚炎に使う「馬歯ケン」の滑性は,有害物の排出促進により消炎・抗菌・解毒の薬効に寄与しています.

 滑性の生薬の副作用は,濫用による過剰な排出の弊害です.これを防ぐには,滑性を抑制する甘味や酸味の生薬を配合する方法を取り入れながら,この薬性がもたらすメリットとリスクを考慮して賢く活用することです.
▲up
No.11 「沈降性」という薬性をもつ生薬
 「沈降性」とは文字どおり,沈める・降ろす薬性,つまり,上から下へ,または,表面から内部への方向性をもった薬効のもとになる薬性です.沈降性の生薬を服用すると,のぼせ・上気・逆上のような神経系の症状から,上げる・もどす・もたれ・つかえ・下がらない・げっぷ・しゃっくり・便秘などの消化器症状,咳・呼吸困難などの呼吸器症状,尿量減少などの泌尿器症状まで,あらゆる意味で,下に落ちず上に逆行する,中に入らず外に戻す症状を改善します.また,他の薬効を体の内部や下部に到達させるのにも役立ちます.

 たとえば,神経症・心身症・自律神経失調症などで興奮症状が激しい場合に,「竜骨」・「牡蠣」・「磁石」などの生薬の沈降性で鎮静させる薬効を生かした処方「柴胡加竜骨牡蠣湯」・「柴磁地黄丸」が使われます.ストレスによる消化器などの内臓機能の失調には,「厚朴」・「川楝子」・「枳殻」・「沈香」・「木香」・「陳皮」の沈降性で緊張・痙攣を解く薬効を生かした処方「舒肝丸」があります.呼吸器症状に「杏仁」・「蘇子」・「半夏」・「前胡」・「厚朴」の沈降性を生かした「麻杏甘石湯」・「蘇子降気湯」,泌尿器症状に「牛膝」・「車前子」の沈降性を生かした「牛車腎気丸」があります.関節痛・神経痛の改善効果を下肢に到達させるため「牛膝」の沈降性を生かした処方「独活寄生湯」もあります.

 沈降性の生薬の副作用についても,なによりこの薬性をよく理解し,薬性に逆らう無理な薬効流用を避け,必要に応じて反対の薬性(昇浮性)の生薬を配合し調整すれば防げます.
▲up
No.10 「昇浮性」という薬性をもつ生薬
 「昇浮性」とは文字どおり,昇らせる・浮かす薬性です.つまり,下から上へ(昇らせる)と,内部から表面へ(浮かす)という方向性をもった薬効のもとになります.昇浮性の生薬を服用すると,垂れ下がったものを引き上げ,沈み込んだものを高揚させ,体内にこもったものを体外に放散させ,または,他の薬効を体の上部や体表に到達させるのに役だちます.

 たとえば,胃腸などの内臓下垂やその他の筋肉の垂れ下がりに,昇浮性の生薬「黄耆」・「升麻」・「柴胡」で筋肉の緊張性を高める薬効を生かした処方「補中益気湯」が使われます.感情・欲求の抑圧による心身のリズムの沈滞とストレスの欝積には,昇浮性の「柴胡」・「薄荷」で心身の働きを高揚させ,ストレスを発散させる薬効のある「逍遥散」が使われます.体表の皮膚・粘膜が有するバリア機能の弱まりで感染症やアレルギーを起こしやすい人には,体の生理的機能を支える力を高める生薬の薬効を特に皮膚・粘膜へと到達させるため,昇浮性の「黄耆」・「防風」の働きを活用してバリア機能を回復する「玉屏風散」が使われます.

 昇浮性の生薬の副作用として考えられるのは,昇浮性の作用が一部で行き過ぎてしまうことで,これは,昇浮性の反対の「沈降性」という薬性の生薬を適切に配合すれば容易に解消することができます.問題なのは,そもそも昇浮性や沈降性という薬性自体が日本ではなじみが薄く,熟知している人が少なく,はっきり意識して活用されていないことです.
▲up
No.9 「寒涼性」の生薬は誤解と無知を正して
 「寒涼性」とは,その生薬を服用すると体が寒く・涼しくなる,つまり,体を冷やすように働くことを表しています.薬性理論によれば,寒涼性は広い意味での熱を冷まし,熱性 の症状を抑え,熱っぽい状態を鎮める作用につながる薬性です.解熱・消炎・鎮静などの薬効として,全身としての発熱・熱中症・代謝亢進・興奮症状や,局所症状としての炎症・充血などの解消のために活用できます.

 しかしながら,漢方薬や食物について一般の多くの人々の先入観として,体を温めるものは何でも体に良く,体を冷やすものは全て体に悪いという誤解があります.一方で,身近な民間薬として愛用されている生薬には,「十薬」(ドクダミ)・「ヨク苡仁」(ハトムギ)・「決明子」(ハブソウ)・「番瀉葉」(センナ)・「山梔子」(クチナシ)・「黄柏」(キハダ)・「芦薈」(アロエ)など,冷やす薬性(寒涼性)の生薬がかなり多いことが,多くの人々に全く意識されていないのも事実です.寒涼性の生薬をうまく使って副作用を防ぐこつは,熱を冷ます基本の薬性を知って,体質や状況に合った生薬を賢く選ぶことでしょう.

 とりわけ,栄養素や水分が消耗しやすい体質や状況には,特有の熱性症状(顔面紅潮・のぼせ・手足のほてり・夕方や夜の熱感・微熱・寝汗)がともないます.これは悪循環に陥った代謝亢進による熱なので,単なる寒涼性の生薬で冷やそうとしても悪化させるだけです.寒涼性と滋潤性を兼ね備えた「沙参」・「玉竹」・「麦門冬」・「天門冬」・「西洋人参」・「玄参」・「亀板」・「生地黄」・「知母」・「菊花」などを選びます.
▲up
No.8 「温熱性」の生薬にも種類がある
 「温熱性」とは,その生薬を服用すると体が温かく・熱くなる,つまり,体を温めるように働くという意味です.薬性理論によれば,温熱性の生薬は内臓・器官の機能を鼓舞し,代謝を活発化する作用があり,体の冷えとその悪影響の解消に役立ちます.温熱性には生薬の種類により度合の強弱があり,温める作用にも特色があるので,体質や状況に応じて生薬を賢く選ぶことが副作用を防ぐこつです.

 温熱性の強い生薬のひとつに「附子」があります.辛味のための活発化の薬性も兼ね備えているため,強力に内蔵機能を勢いづかせ,エネルギー代謝を激しく活発化させ,冷えた体を速効的に温めます.「八味地黄丸」・「真武湯」・「麻黄附子細辛湯」に配合されています.

 同様に冷えに用いるものでも,比較的穏やかな温熱性をもつ生薬に「黄耆」があります.甘味による補養性と昇浮性を兼ね備え,内臓や皮膚の本来の機能を支える力を養います.こうして,代謝を促進しつつ,体表からエネルギーが無用に失われないよう守り,無駄なく効率的に体を温める力を回復します.「補中益気湯」・「玉屏風散」に配合されています.

 もうひとつ,冷えに用いる穏やかな温熱性の生薬として「当帰」があります.辛味・芳香による疎通性と,甘味による補養性を兼ね備えています.末梢血流量を増やし,温められた内部の血液をより多く体表に送り,皮膚を栄養しながら手足を温める仕組みを助けます.「四物湯」・「当帰養血膏」に配合されています.
▲up
No.7 「芳香」の生薬は心と体の目覚まし
 漢方では,生薬の発する香りも薬性の尺度になります.薬性理論によれば,「芳香」のある生薬には一般に,賦活性・興奮性の薬性があります.芳香が体内の各器官を刺激して,内にこもるものを発散させたり,停滞している流れを再開させたり,鈍化している働きを鼓舞します.たとえば,「菊花」で解熱消炎,「カッ香」で水分蒸散促進,「川キュウ」で血行促進,「木香」で内臓運動促進,「柴胡」で感情賦活,「麝香」で意識賦活などの薬効を活用できます.

 芳香生薬の薬効は,心身を醒ます効きめとも比喩的に表されます.芳香の刺激で驚かせて目覚めさせるように,中枢神経のみならず循環器系や消化器系をも,活発な状態へと蘇らせます.このため,何らかの原因でひどく障害された機能を持ち直すための強力な手段になります.一方,速効性を求めるあまり,芳香生薬の薬効に頼りすぎると,一時的な回復だけ無理強いして,機能をかえって弱めていく悪循環に陥ります.動悸・息切れなどに適用する「六神丸」は,芳香の「麝香」・「牛黄」・「竜脳」などを主薬として,弱まった心拍動や意識をとりあえず一時的に持ち直すための処方なので,長期連用すると悪循環になります.

 芳香生薬の薬性の巧みな活用法は,胃腸薬として使う「香砂六君子湯」に見られます.甘味の「人参」・「白朮」を主薬として胃腸の働きの根本的な改善を図る基本処方「六君子湯」に,芳香の「木香」・「縮砂」が加味され,胃腸運動の活発化・食欲増進・消化促進の効果で,無理なく胃腸の調子を整えるのに役だっています.
▲up
No.6 「淡味」の生薬は脇役として活用
 漢方における「淡味」は,単にうすい味という意味ではなく,辛苦甘酸鹹の五味以外の重要な薬性の尺度となる第六の味です.薬性理論によれば,たとえば「茯苓」(マツホド)や「ヨク苡仁」(ハトムギ)などが淡味の生薬で,浸透性・排水性の薬性があります.鹹味や甘味が体内に水分を貯留させるのとは反対に,淡味の生薬には,体内の過剰な水分を尿として排出するのを促進する作用があります.

 体内に必要な水分まで尿として出してしまう現代医学的な利尿剤とは異なり,淡味の生薬は,組織間や消化管内にだぶついた水分を血中に引き込む結果として尿量を増やすので,浮腫・水腫・重だるさ・腹部膨満・尿量減少・下痢・水様便・帯下過多などの解消に活用でき,弊害がないと考えられています.

 それでも漢方では,特に代謝バランスがくずれて水分が消耗しやすい体質や,脱水を起こしやすい状況では,水分のだぶつき症状があっても,淡味の生薬のみを用いることは避け,原因となる泌尿器系・消化器系などの弱まりの改善を同時に図ります.「牛車腎気丸」という漢方処方は,淡味の「茯苓」・「沢瀉」・「車前子」で,組織間にだぶついた水分を排出し,浮腫・尿量減少などに対処しつつ,甘味の「地黄」・「山薬」などで泌尿器系の組織を養い,機能を高めていきます.「参苓白朮散」は淡味の「茯苓」・「ヨク苡仁」で,腸管内などにだぶついた水分を排出し,下痢・水様便などに対処しつつ,甘味の「人参」・「山薬」などで消化器系の組織を養い,機能を高めていきます.
▲up
No.5 「鹹(かん)味」の生薬は負担にならない活用を
 「鹹味」とは塩からい味のことですが,鹹味の生薬は塩化ナトリウム(食塩)が主成分とは限らず,広範な種類のミネラルを豊富に含む,様々な地中の鉱物,海産の魚介類・海藻類,陸生の哺乳類・爬虫類・昆虫などがあります.

 漢方の薬性理論によれば,鹹味の生薬には柔軟化・滋養性の薬性があります.服用しても吸収されず腸管内に留まるものもあれば,吸収され血中に入るもの,組織・細胞の内部にまで取り込まれるものもありますが,いずれも各所に水分や栄養素を引き入れて保持・貯留します.このため,便の水分を増やし軟らかくする,血中水分を増やし循環を改善する,しこりを軟化・消失させる,生命維持・自己保存の機能を支える「腎」系統の組織を滋養し衰えを回復するなどの薬効を発揮します.

 鹹味の生薬の副作用としては,多量服用時の過剰な塩類作用による下痢(「芒硝」など)と高血圧(「食塩」のみ)のほか,生命の根源にまでしみ込むような濃密・重厚な滋養性ゆえに,胃腸など体内の働きへの負担となり,消化不良やアレルギーを起こすこともあります.

 副作用なく鹹味の生薬を活用するためには,「右帰丸」や「左帰丸」の成分構成が参考になります.「腎」を補う基本処方「六味地黄丸」の主要な3成分である甘味の「地黄」・「山薬」と酸味の「山茱萸」に加え,鹹味の「鹿角」・「亀板」が配合されています.甘・酸味で総合的に体内の働きを助けて「腎」を補益する基盤の上に,鹹味の滋養性を無理なく生かしているのです.
▲up
No.4 「酸味」の生薬は組み合わせて生かす
 漢方の薬性理論によれば、「酸味」のある生薬には一般に、収斂性・安定化の薬性があります。この薬性は、皮膚や粘膜を引き締め、水分・栄養素・エネルギーが体外に漏出したり放散するのを抑え、各組織の働きを落ち着かせるのに役だつので、多汗・口渇・乾咳・下痢・多尿・帯下・遺精・出血・興奮・消耗などがおさまらない状態に応用されます。

 このように体内に保たれるべきものが失われやすい状態には、その原因として各組織の構造や仕組みの弱まりとか、代謝バランスやリズムの失調などが内在すると考えられます。そこで,酸味で組織を引き締める効果にのみひたすら頼って症状を抑え込むことには無理があり,症状がぶり返し続けるばかりか、原因がさらに悪化することにもつながります。

 漢方では、酸味の薬性を生かしつつ、無理な応用の副作用を防ぐため、巧みに生薬を配合して処方を考案しています。多汗・口渇・息切れなどの症状に適用する「生脈散」は、酸味の「五味子」の収斂性で体の消耗を抑えつつ、甘味の「人参」と「麦門冬」の補益性で、内在する仕組みの弱まりの改善をはかっています。

 不眠・焦燥・動悸に適用する「酸棗仁湯」は、酸味の「酸棗仁」の収斂性で栄養素の消耗を抑えて心身の休養を助け、消耗のもとになる代謝亢進を苦味の「知母」の沈降性でしずめ、代謝亢進につながる心身のリズムの失調を辛味 の「川キュウ」の活発化の薬性で復調させることで、薬性を連携させて無理なく活用しています。
▲up
No.3 「甘味」の生薬の副作用
 漢方の薬性理論によれば、「甘味」のある生薬は一般に、補益性・保護性と表されるような薬性があります。この薬性は人体の各組織の機能面・物質面の減退や不足を回復するのに役だつので、体力増強・疲労回復・栄養改善・体液保持などの薬効として活用されます。

 このように、体のためになり助けになる甘味の生薬でも、一部の薬効を求めるあまり、多量に長期連用したり、体内に既に過多の要素をよけい補うような誤用をすれば、機能面の過度の高ぶりや物質面の過剰な貯留の現れとして副作用を起こします。よく知られている「人参」による血圧上昇、「甘草」による水腫などの副作用はそうした薬性への無理解と偏った応用の結果として起こることです。

 漢方における代表的な処方には、副作用を予防するための模範になる生薬配合があります。たとえば、体力増強と体液保持の薬効がある「生脈散」には、温めて心身の活動を盛んにする薬性の「人参」に、同じ甘味ながら、冷やして安らかな休養を助ける薬性の「麦門冬」が配合され、薬効を活用しながら副作用を起こさないように成分生薬が選択されています。

 消化器の機能改善と体力増強の薬効がある「四君子湯」を構成する4種の甘味の生薬のうち、「茯苓」は淡味の要素もあるため排水性の薬性をもち、「白朮」は苦味もあるため乾燥性の薬性をもち、ともに余剰水分の除去を促進し、「甘草」と「人参」によって起こり得る過剰な水分貯留を防いでいます。
▲up
No.2 「苦味」の生薬は乾燥性に注意して活用
 漢方理論によれば、「苦味」の生薬には清浄化・乾燥性の薬性(薬としての性質)があります。この薬性は、体から不要で有害なものを排出するのに役だち、抗菌解毒・消炎解熱・余剰水分除去などの薬効として活用されます。

 このため、熱や滲出をともなう炎症などに 「苦味」の生薬が適応されることは多く、その際、熱代謝の亢進を抑えきれず、水分や栄養素の消耗が激しいと、「苦味」の乾燥性が悪影響して消耗をなお助長し、脱水・異化亢進・病状悪化などの副作用の原因にもなります。

 日本における慢性肝炎への「小柴胡湯」の応 用による副作用(間質性肺炎)の多発は、まさに、柴胡・黄ゴンなどの「苦味」の生薬の強い乾燥性の影響に対処せず病状悪化させた結果と考えられます。「小柴胡湯」は本来、感染性疾患の過程で弛張熱をともなうときに短期適応されるハードな薬性の処方です。本場中国の漢方では、同じく柴胡を主薬として活用するのでも、慢性疾患の長期にわたる治療に役だてる目的には、多くの場合、マイルドな薬性の「逍遥散」が基本処方として選ばれます。

 「逍遥散」の配合生薬のうち、当帰の「甘味」には補益性・保護性の薬性、芍薬の「酸味」には収斂性・安定化の薬性があります。ともに、栄養素と水分の蓄えを増やして消耗を防ぎ、柴胡の乾燥性の影響から保護して副作用を回避するだけでなく、心身の機能のリズムを安定させることで病状改善にも寄与しています。
▲up
No.1 「辛味」の副作用は「酸味」や「甘味」で防ぐ
 本場中国の漢方では、処方を構成する各生薬がどんな「薬性」をもち、それをどんな薬効として活用でき、どんな副作用の原因になるか、常に意識して使うことが重んじられます。さらに、生薬をどのように配合したら副作用が防げるか、明確に理論づけられています。

 「辛味」の生薬には発散性・活発化の薬性があり、発汗解熱・鎮痛消炎・鎮咳去痰・血行 改善・代謝促進などの薬効として活用できますが、発汗過多・脱水・異化亢進・体力消耗 などの副作用の原因にもなります。「酸味」の 生薬には、その逆の収斂性・安定化の薬性が あるため、これを配合すれば、辛味の薬性を抑制し、発汗過多・異化亢進を防ぐことがで きます。また、補益性・保護性の薬性がある 「甘味」の生薬を配合すれば、発汗で体液・体 力が消耗するのを防ぐことができます。

 かぜで寒けがするとき使う「葛根湯」の配合生薬のうち、麻黄・桂枝・生姜・葛根がもつ「辛味」の薬性は発汗解熱の薬効として活用され、一方、芍薬の「酸味」、甘草・大棗・葛根 の「甘味」は副作用を防ぎ、比較的マイルドな処方の薬性に調整する役割を果しています。

 咳と薄い痰が多い症状に適する「小青竜湯」 の場合は、麻黄・桂枝・細辛・乾姜・半夏の「辛味」の薬性は鎮咳去痰の薬効として活用され、五味子・芍薬の「酸味」の薬性は副作用を防ぐばかりでなく、鎮咳の薬効を補助的に高めるためにも役立っています。
▲up