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No.77 疲れた「肝」を復活させる貴重な生薬配合

 漢方には「木鶏湯」という珍しい処方があります.中国東北部の長白山周辺に居住する満州民族に伝わる秘方で,この地域に自生するきのこタマチョレイタケ科カワラタケの子実体「雲芝」と,落葉高木クルミ科マンシュウグルミの樹皮「核桃楸皮」を煎じた湯剤です.「木鶏湯」という名称は,枯れ木に重なり合って群生する「雲芝」の形状を,伝説のキジの容姿に見立てた地元村民の呼称「木鶏」に由来します.現代医学的には,流行性肝炎などに相当する病症の改善と体調回復のために,「木鶏湯」が役立てられてきました.

 「木鶏湯」の2生薬は「肝」に作用することが共通です.漢方の「肝」は,現代医学の肝臓を含む自律機能調節系に相当し,心身の活動/休養の態勢を整えるため,栄養素の動員/貯蔵(「血」の配分)を切換え,エネルギーの産生/節約(「気」の運行)を調節する器官系です.

 「雲芝」は,甘味で寒涼性の生薬に特有の,補益して抑制する薬性で,「養肝益気」の薬効を発揮します.「肝」の働きを担う「気」を補い,「血」の消耗を防ぐ,貴重な薬効の生薬です.「核桃楸皮」は,苦味で寒涼性の生薬に特有の,抑制して乾燥する薬性があり,「清熱解毒」と「燥湿利水」の薬効をもたらします.「肝」の過亢進や炎症による「熱」や「湿」を除去できます.

 このように「木鶏湯」は,「肝」が「熱」や「湿」で障害され,働きを担うべき「気」が弱まった状態に,より広く適応できます.疲れた「肝」を復活させ,心身にリズムと活力が蘇ります.

大熊薬局 大熊俊一先生<大熊俊一 オオクマ トシカズ>
1980年 東京薬科大学卒業。薬剤師試験合格。
1981年 同大学第2薬化学教室助手。
1982年 同退職後、研究生。
1987年 同大学に学位論文を提出し、審査・試験に合格し薬学博士を取得。
1991年 有限会社大熊薬局代表となる。
掲載紙名:両毛新聞(3ヵ月に1回)(No.47までは月1回)