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中国漢方における周期調節法の進歩

『周期調節法で体質を改善』

 現代医学では、子供がほしい夫婦の望みにこたえる革新的な療法や技術が近年めざましく発展し、以前であれば、子供をもつことをあきらめていた状況の人々にも活路を開きました。しかし、体外受精、顕微受精や排卵誘発剤・ホルモン療法など、妊娠までのプロセスの一部を人工的に進行させる方法ばかりが突出して進歩しました。そのため安易に、それらに頼りすぎる傾向が見られ、妊娠のプロセス全体をささえるための基礎的な改善がおろそかになっているとも言えるではないでしょうか。

教わるパンダ親子 中国漢方では、他の生理・生命現象と同様に、妊娠が成立つために体内で働いている組織自体の本来の機能をあくまでも尊重しています。漢方薬により、組織の活動や休養の仕組みを助け、いろいろな機能の障害や負担になる不要な物を取り除き、狂ったリズムを正常にすることを通じて、自然な妊娠を整えることが中国漢方の周期調節法の基本です。

 初潮から閉経まで毎月繰り返される女性の生理周期は、妊娠を準備する基礎的なプロセスで、月経期、卵胞期、排卵期、黄体期という異なる役割をもち4期で構成されています。中国漢方では妊娠の条件を整えるために、各期の役割を十分に果たす助けになるよう、期間ごとに薬や養生法などを変え、適合させることが必要です。この考え方に基づいて開発さらたのが周期調節法です。

 それぞれの期間ごとの生理的な特質と用いる漢方薬など、近年さらに学問的な議論と臨床上の研究が深められ、高い成果が期待できる療法として確立されています。

月経期には活血薬と理気薬で

『排出をスムーズに完全に』

 月経期(周期のはじめの3日~1週間)の役割は子宮内膜を再生する前段階として、主要な粘膜層の全体をはがし、溶かして月経血として体外に排出することです。このように組織を一度に全部作り直す仕組みを持つ臓器は他にはありません。卵巣から毎月1個ずつ出される新しい卵子を、いつも新しい清浄な着床環境に迎えられるように、粘膜層の完全な作り直しを繰り返しています。

 この時期には血行を促進する丹参(シソ科タンジンの根)、川弓(セリ科センキュウの根茎)、紅花(キク科ベニバナの花)などの活血薬を用いて、子宮内膜を徹底的に清浄にします。これには、前の周期で役目を終えたホルモンなどの残留による無用な増殖を防ぎ、子宮内膜症・子宮筋腫・卵巣嚢腫・卵管周囲癒着などの器質的な障害を予防する意味もあります。さらに、香附子(カヤツリグサ科ハマスゲの根茎)、木香(キク科インドモッコウの根)、烏薬(クスノキ科テンダイウヤクの肥大した根)などの理気薬を同時に服用することで、月経血を排出する子宮の筋肉や血管の運動のリズムを改善し、無理なくスムーズに子宮内を清浄にします。また、月経痛を和らげます。

卵胞期には補血薬と滋陰薬で

『栄養供給を増やして』

 卵胞期(月経期後の約1週間~10日間)の役割は子宮内膜の新しい粘膜層を再生・増殖させ、卵巣内では1個の卵胞を成熟させることです。月経期に止められていた粘膜層への血液の供給が再開し、発育中の卵胞から分泌される卵胞ホルモンの作用により、栄養素を細胞・組織の構成材量として組み込んでいく働きを進めています。

 この時期は当帰(セリ科トウキの根)、熟地黄(酒で蒸した成熟したゴマノクサ科ジオウの根)、芍薬(ボタン科シャクヤクの根)などの補血薬と山薬ヤマノイモ科ヤマノイモの根茎)、山茱萸(ミズキ科サンシュユの実)、熟地黄などの陰を補う滋陰薬を用いることによって、月経期で失われた血液量の回復を促進し、末梢の血流量を増やして、子宮と卵巣への栄養素やホルモン供給不足を防ぎます。また、無用な子宮の収縮や出血が起こらぬように安定させる働きがあるので、補血薬と滋陰薬の組み合わせは子宮内膜の回復と卵胞の成熟を助けるために、トータルに役立ちます。

排卵期には活血薬と理気薬で

『排卵を促し、高温期に移行をすみやかに』

 排卵期(周期の中間部の数日間)の役割は卵巣内の成熟卵胞から卵子を排出し、黄体を作り、低温期(卵胞期)から高温期(黄体期)へ移行させることです。血中の卵胞ホルモン濃度の増加から、卵胞の成熟を知った脳はホルモンにより血液を通じて卵巣に命令を伝え、排卵を促して成熟卵胞を黄体に変えます。その黄体からホルモンが分泌されて血流で全身に運ばれ、高温期に移行します。この排卵期には再び活血薬と理気薬を用いて、ホルモン分泌の連携を良くし、確実に、かつ速やかに排卵、黄体化へとつなげます。

黄体期には補陽薬で

『受精卵を着床させよう』

 黄体期(周期後半の約2週間)の役割は子宮内膜に再生された分泌腺の働きにより、栄養素に富んだ分泌液(子宮ミルク)を蓄え、受精卵を着床・養育できる態勢を整えることです。黄体ホルモンの作用により、子宮内膜への血液供給が加速し、体内に蓄えられた栄養素を分解し、エネルギー代謝を高め、基礎体温を月経期・卵胞期より0.3~0.5℃高く維持します。代謝をささえて持続させる力になる鹿茸、巴戟天(アカネ科ハゲキテンの根)、海馬(タツノオトシゴ)などの陽を補う補陽薬を用いることで、安定した高温期の維持を助け、子宮内膜の着床・養育態勢をしっかりと整えます。妊娠していない場合、次の月経を楽にしてくれます。