更年期をうまく越えるための漢方

2012-11-02

 大熊先生がわかりやすく解説したもので、必ず役に立つこと請合い。

産後には「気血」を補う漢方薬を

 妊娠中にはエストロゲンとプロゲステロンの2つ女性ホルモンが、初期には卵巣から、次に胎盤から多量に分泌され、2つが相補的・協調的に働いて、エネルギー産生と組織再生の両面の新陳代謝を活性化し、胎児の育成を支える母体の態勢を整えながら、分娩・授乳の準備も進めます。また、気分を高揚させ、精神的な適応力を高める作用もあるようです。分娩が間近になると、これらのホルモンの分泌は、先にプロゲステロン、次にエストロゲンの順で急激に減少し、分娩にともなう胎盤排出の時点から、卵巣周期が再開するまでの間は分泌がとぎれます。

 そこで、産後しばらくはこれらのホルモン分泌が無くなった分だけ、心身両面の活発さが失われます。この状態は、身体を消耗させる無用な活動を控え、分娩にともなう創傷・失血・栄養不良をゆっくり癒やし、子宮がもとの大きさ・位置に戻るまで、身体の休養に専念するには好都合な条件を与える意味もあります。しかし、日常生活への復帰・育児の過程の中で、この心身の不活発さは、ときに、ゆううつ・無気力・疲労感・嗜眠・集中力の低下・作業の緩慢さ・いらだち・怒りっぽい・情緒不安定・食欲不振または過亢進・悪露の変化が順調でないなどの原因になります。

 漢方では、産後には「気」を補う漢方薬で、穏やかに心身の活発さと体力・気力を回復し、「血」を補う漢方薬で、血液の不足と末梢組織への栄養供給を改善し、母乳がよく出るように条件を整えます。このことにより、「気血」の流れの滞りをも解消できるので、情緒不安定・食欲異常・悪露異常を改善できます。

更年期障害への対処は正しい理解から

 女性には、更年期を考えるのは避けたいという心理があります。年齢のことは自分も周囲の人も忘れている間に、更年期をそれとは知らずに無事過ごし、いつまでも変わらず、若々しく美しく健やかにあり続けたいという願望があります。しかし実際には、誰もがそんな幸運に楽な更年期を過ごせるわけではありません。更年期を正しく理解することは、ただ幸運と偶然に頼るのではなく、美容と健康をしっかり保つための第一歩です。

 従来は一般に、更年期障害の症状が現れたときに更年期に入ったと診断され、あるいは、自覚されることが多いため、更年期障害が起こる時期が更年期と考えがちです。さらに、更年期障害が起こらなかったので更年期は無かったなどと誤解さえ生みかねません。

 そもそも、更年期とは女性ホルモンの分泌が低レベルへと移行する期間であって、女性は誰でも通過する不可避な過程です。これに対応し、だいたい40歳から60歳までを一律に更年期と定義する新しい考え方もあります。

 更年期には、更年期障害を起こしやすい体内の条件がつくられます。この条件は更年期を過ぎて老年期になっても持続し、多くの場合、何らかの種類のストレスが最後のひと押しになって更年期障害が起こると考えられます。積極的な活動に打ち込んで、ストレスを昇華させ、更年期障害の発症を抑制できる場合もありますが、更年期から老年期はストレスの元になる状況や出来事が重なる年代でもありますから、そううまくできないのも無理からぬことです。このような認識と理解の上で、漢方薬の適応も考えていくべきでしょう。

更年期の始まりには「気血」の充実を

 更年期とは、人の成熟期が終わり老年期へと移行していく過渡期です。女性の場合、閉経(50歳頃)を中心とする10年間をさすのが一般的ですが、より広く、おおよそ40~60歳を更年期とするほうが現実的・実感的と思われます。この間に、卵巣内の原始卵胞数が底をつき、女性ホルモンの分泌能力が衰え、血中濃度が成熟期レベルから、その1/10以下の老年期レベルにまで直接的に低下します。

 そこで、40歳代に入ると、卵胞の発育が排卵・黄体形成にまで至らなかったり、子宮内膜の増殖が悪くなる結果、月経周期の短縮・不正出血・月経の遅れ・月経血量の減少などが起こりはじめます。一方、脳は女性ホルモンのレベルを無理に回復しようと、卵胞の発育とホルモン分泌を増やすよう激しくせきたてる結果、ホットフラッシュ(急激なのぼせ・ほてり・発汗・動悸)・めまい・耳鳴り・頭痛・不眠など、ホルモン分泌・自律神経系の過緊張を反映する症状や、イライラする・怒りっぽい・ゆううつ・つまらない・くよくよ考えるなどの感情面の症状が40歳代半ばから現れ始めます。女性ホルモン減少の影響としては、さらに、全身組織の栄養素の蓄えの不足・異化作用(構成物の分解)の亢進・組織の萎縮・血中への栄養素動員の増加・無用な栄養素の過剰傾向がもたらされる結果、肌が乾燥する・荒れやすくなる・ハリや弾力がなくなる・シワが増える・皮膚が薄くなる・膣の乾燥・酸性度の減少・骨組織の脆弱化・血中脂質の増加・急に太りだすなどの症状が起こります。

 中国漢方理論では、40歳代初めから「気血」の充実に努めることが、「更年期」を難なく乗り切り、早期の衰えを防ぐための基本です。

更年期から老年期には「補腎薬」を

 更年期は成熟期から老年期への移行期で、男女ともにありますが、女性のほうが徴候がはっきりしています。その根本原因は、卵巣内において女性ホルモンを分泌すべき卵胞のもと(原始卵胞)の数がかぎられていることです。

 出生時に卵巣内には原始卵胞が約百万個あり、その後は新生しないので、これが女性の一生に与えられた卵胞のもとの総数なのです。原始卵胞数は出生直後から、1次反応的な速度法則に従って、約13年ごとに1桁ずつ(指数関数的に)減少していきます。これは、原始卵胞が発育可能な状態へ変化していくためですが、その分が全部発育するわけではありません。卵巣が休止している小児期には、発育可能になっても発育せずに全部消失します。思春期以降には、一部は発育するようになって女性ホルモンが分泌され、周期的に選り抜きの1個が完全成熟・排卵に至りますが、残りの大多数は消失していきます。

 40歳を過ぎると、原始卵胞の残数は約千個で、1周期あたり発育可能になる原始卵胞は約10個しかなくなり、女性ホルモンの分泌が減り始め、無排卵・月経不順など更年期の徴候が出始めます。50歳頃には、発育可能になる原始卵胞が1周期あたり1個ほどしかなくなり、女性ホルモンは激減し、閉経へと至ります。

 月経周期を維持できるレベルではなくなったものの、その後も、卵巣の女性ホルモン分泌能力がなくなってしまうわけではなく、また、副腎から分泌されるある種のホルモンが末梢で女性ホルモンに変えられ働く代償機能もあります。

 漢方における「補腎薬」は、内分泌系全般を養うことで、このような更年期から老年期の間も生かす余地のある女性ホルモンの働きを支援するのに役立ちます。

更年期以降の体内の緊張を緩和する漢方薬

 更年期には、卵巣内の原始卵胞数が底をつき、女性ホルモンの分泌が衰えます。脳の視床下部には、女性ホルモンの血中濃度の低下を察知し、脳下垂体を介して卵巣からの分泌を促進する機能がありますが、もはや元のレベルに戻すことは本質的に不可能です。しかし、それは脳にとって、全く予期していなかったことであり、こんなはずではないとばかり、無理に回復させようと激しくせきたて続け、卵巣の衰えをいつまでも現実として容認しません。事実、更年期において、脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンの血中濃度は、成熟期の約10倍にまで上昇し、その高レベルは80歳以降も維持されます。

 このような脳からの無理なせきたてが、更年期から老年期にわたり、自律神経・内分泌系の中に無用な緊張状態を持続させます。更年期障害のうち、急激なのぼせ・ほてり・発汗・動悸・耳鳴り・頭痛・めまい・不眠・情緒不安定などの症状は、その無用な緊張状態から起ります。しかしながら、これらが更年期前半から発症する人もいれば、老年期に入ってから発症する人、全く発症せずに一生を過ごす人もいるなど、個人差が大きく出ます。自律神経・内分泌系の緊張性はストレスによって助長されるため、何らかの心身の負担になる出来事や状況が最後のひと押しになり、発症にいたる場合が多いのです。逆に、趣味など積極的活動に打ち込んで、ストレスを昇華させ、発症を抑制できた例も多くあります。

 こうした自律神経・内分泌系の過度の緊張から起こる病態を、漢方では「肝」の働きの失調による「気」の流れの疎通の悪さと欝滞として捉え、「疏肝解欝薬」で改善します。

更年期以降の異化作用の亢進を防ぐ漢方薬

 女性ホルモンは,成熟期において身体に女性らしさの特徴を付与し,女性性器を発達させ,月経周期と妊娠を主とする女性側の生殖過程を担う目的で,女性の筋肉・骨・軟骨・粘膜・皮膚など,広範な組織の同化作用(栄養素を組織の構成成分として組み込む働き)の促進に関わります。その結果として,必ずしも女性的な機能にとどまらず,健全な身体維持に不可欠な働きの一部まで支えているのです。

 このため,更年期になって女性ホルモンの分泌量が低レベルに移行することは,単に,成熟期に与えられていた女性的な機能の消失だけでなく,身体組織全般にわたる健康の衰えにもつながります。同化作用が促進されないと,組織再生が遅くなるため,異化作用(組織成分を分解していく働き)が相対的に優位になり,各組織の萎縮・脆弱化・粗鬆化などが起こりやすくなります。一方,組織に同化されるはずの栄養素が使われず過剰になるため,徐々に肥満になってきたり,栄養素の血中濃度が高くなりやすくなります。また,卵巣での女性ホルモンの合成を無理に促進する目的で,その原料であるコレステロールが肝臓から血中へ動員され続けます。このような栄養素の血中高濃度が持続することは,動脈硬化・血管性疾患などの原因になります。

 異化作用が亢進すると,組織の破壊が進行しつつ,活動のためのエネルギーが産生過剰の傾向になり,のぼせ・手足のほてり・体の熱感・口の乾燥・寝汗・不眠・耳鳴りが持続的に起こるようになります。この状態の本質は,中国漢方においては「陰虚」として把握され,「補陰薬」を使って改善します。

更年期からの血行改善の意義

 成熟期において女性ホルモンの生成・分泌は巧妙に調節されています。脳の視床下部は脳下垂体を介して卵巣内の女性ホルモンの生成・分泌を促進しますが、分泌量が多くなると、女性ホルモン自体が視床下部と下垂体に逆に作用して、促進の働きを抑制します。また、女性ホルモンの原料となるコレステロールは、肝臓から血中へ動員され、卵巣に供給されますが、女性ホルモンが多くなると、それ自体が逆に作用して、肝臓から血中へのコレステロールの動員を抑制します。

 更年期になると、卵巣の女性ホルモン生成・分泌能力が本質的に衰え、もはや成熟期のように多く生成できないため、生成促進の働きが過剰に亢進するばかりで、女性ホルモンの逆作用による抑制が掛かりません。そのため、視床下部の支配下にある自律神経系、特に血管運動神経が失調すると同時に、血中コレステロールが高濃度のままになる結果、血流・血圧・血管に影響が及び、やがて、血液循環障害・血管性疾患につながります。

 漢方では、血液循環が本来の正常な状態でなくなったら、全て「瘀血」として把握します。更年期障害のうち、手足や腰の冷え・冷えのぼせ・肩こり・頭痛・健忘・動悸・不整脈・手足のしびれ・肌の黒ずみ・シミ・かさつき・アザができやすい・体表血管の怒張などの症状は「瘀血」から起こりえると考えます。「瘀血」を解消する作用ある「活血薬」の服用は、血液自体の性状と循環状態の改善を通して、悩みの症状を解消するとともに、心臓や脳の血管性疾患の予防に役立ちます。


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