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第1回定例会報告 2009年2月

テーマ・・・痰飲 「臨床で応用範囲が広く、使いやすい黄連温胆湯(星火温胆湯)」
報告者・・・漢証堂薬局 国府正英

 栃木中医薬研究会の2009年2月定例会では、黄連温胆湯(星火温胆湯)について中医学講師の包海燕先生に講義をしていただきました。全身の痰が使用目標になりうることなので、痰飲を復習することからはじめます。漢方では病気を考える際に、まず病気の性質の種類を鑑別することから始めます。

気・血・水(津液)とは

 体のエネルギー源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの体を維持する基本的物質である3つが体内で量が十分で、流れがスムーズであることが、体を正常な状態に保つことなのです。

 もし、これらのひとつでも、不足してしまったり、流れが停滞してしまうと体に変調をきたし、様々な症状がでてきます。

気・血・水(津液)の病理状態には 基本的に不足または停滞の二つ

 気が不足すれば気虚
 気が停滞すれば気滞

 血が不足すれば血虚
 血が停滞すれば瘀血

 水が不足して乾燥すれば陰虚
 水が停滞すれば水滞(湿・飲・痰)

 身体を維持する基本的物質である気・血・水(津液)の何処かにトラブルがあるかを明らかにし(気血津液弁証)、更にこの病気が冷え傾いているか、熱に傾いているかを明らかにしなければなりません。

 これを「定性」と呼びます。

臓腑の働きとは

 五臓六腑が体を維持する基本的物質である気・血・水を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているものです。この気・血・水のトラブルがどの部位(五臓六腑)にあるかを明らかにしなければなりません。

 これを「定位」と呼びます。

 まず「定性」をし、次に「定位」を弁証して使用する漢方薬を決定する方法です。

 痰飲は正常な水(津液)が停滞して病的な水に変化したものですから

津液(しんえき)とは

 体を維持する基本的物質の一つで、「体内の全ての正常な水液」で、ある人は中医学の津液を体液として考えています。汗・唾液・胃液・尿などの分泌物や排泄液も含まれる。一般的には中医学での「気・血」を重要視する傾向があるが、津液もかなり重要であると私は考えています。

 津液の「津」はさらさらしたもので、「液」は津が熟したもので、比較的濃いもの

【津液にはいくつかの機能がある】
1、血の生成に関与する。
2、臓腑・四肢・筋肉・皮膚・骨・爪・毛髪・眼球等を滋潤し、関節を円滑に動かし、脳髄・骨格を栄養滋潤すること。
3、暑ければ汗孔を開いて汗を出し、寒ければ汗孔を閉じて発汗を抑え(この場合尿量が増えるのだが)環境への適合を手助けする。

 津液の病証には、津液不足(陰虚)と水液停滞(湿・飲・痰)がある。

停滞(湿・飲・痰)とは

 水液脾胃・肺・腎・肝・膀胱・三焦での何処かが機能失調した結果、水(津液)が停滞して病的な水となったもので、急性の風(外感)などは別として、一般的な慢性病で内臓のトラブルによりできた湿・飲・痰は、水の性質からネバネバ・ベトベトして取りづらくて、再発しやすいと特徴があります。

 湿が聚まると飲となり、飲が凝固すれば痰となります。簡単にいえば停滞した水液の濃度で、水の邪の性質を持ちながら、湿が一番サラサラしており、少し濃くなったものが飲で、固まったものが痰となり、湿・飲・痰では、治療方法が異なります。

日本人は中医学での痰ができる環境で生活している。

 日本には「あとは野となれ、山となれ」という言葉があるように、何も手入れもせず放っておいても、草や木が茂ってしまうほどの湿気が十分にある環境に囲まれています。また湿気が一ヶ所に留まると「ネバネバ・ベトベト」という性質を帯びるようになり、体にいやな影響を及ぼしし始めます。

 飽食の時代でもあり、甘いものや高カロリーなどの食生活も痰を生む一つの要因(メタボリック・シンドローム)となります。ストレスによって中医学での肝の機能に失調が起こり、水の流れに影響をして痰にもなります。

痰とは

 中医学では、気管支から出る目に見える痰と、目で確認できない体の中にある痰の二種類があり、目に見えない痰があるかは、舌の状態や患者さんの自覚症状などにより診断しなければならない部分が難しい。

 温胆湯
 主治・・・悪心・嘔吐・いらいら・口が苦い・驚きやすい・動悸・痰多・胸苦しい・めまい・てんかん発作・舌苔が微黄膩・脈は滑あるいは弦でやや数など。(中医臨床のための方剤学より)

 気管支から出る「見える痰」はわかりやすいが目で「見えない痰」とは

 □体全体では・・・太りやすい(脂肪も痰の一種)
 □頭にあれば・・・めまい、不眠、頭痛、健忘、鬱的(自律神経の乱れ)
 □咽にあれば・・・咽の痞え
 □胸にあれば・・・動悸、胸苦しい
 □胃にあれば・・・むかつき、ゲップ
 □腸にあれば・・・お腹の張り
 □足にあれば・・・重だるい
 □血管内にあれば・・・中性脂肪

 など頭から足まで痰はあるものです。

 星火温胆湯とは組成から考えれば使用しやすい処方

 薬の性質から考えれば
 半夏・陳皮・生姜・・・温性(温める)
 茯苓・甘草・酸棗仁・・・平性(温っめも冷しもしない)
 竹茹・枳実・・・微寒性(わずかに冷やす)
 黄連・・・寒性(冷やす)

 使用ポイント

 口の中の苔がベットリまたは舌全体がしっとり(滑)+症状

 痰は陰邪であり、温性で痰を取る半夏・陳皮の化痰薬が必要であり、また微寒性の竹茹の化痰薬が入っており、冷やす作用の強い黄連はわずか1gしか入っておらず、全体的には温性の薬が中心にしているが、わずかの寒性の薬が入ってことにより、穏やかな処方となっており、基本的にはすべての痰を取ることができます。

 ただ、黄連温胆湯は水分が停滞してできた痰を取る処方なので、水分が不足した陰虚がある場合には、基本的には使用しないほうがよい。

 内傷病(目で見えない痰)

 中医学での水分が停滞した病的な痰は、全身にあり、例えば脳に痰がれば、脳梗塞や認知症やてんかん発作やめまいや鬱となる可能性があり、咽に痰があれば咽の痞え(梅核気)となり、胸に痰があれば心筋梗塞の原因となる可能性があり、胃に痰があれば、むかつき・ゲップとなり、足に痰があれば、重だるいなどとなります。

 また、中医学での痰は、現代医学での「脂肪」も含まれているとしており、中性脂肪も痰の一部であり、メタボリック・シンドロームや高脂血症も痰が重要な原因とも考えられます。

 化痰薬の代表的な温胆湯の応用範囲が広く、黄連温胆湯は温胆湯の加減方であるので痰があれば使用できるのではないでしょうか。