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No.86 全体を見渡す漢方理論が現代医学を補完

 現代医学では,体内の分子レベルのミクロな変化を解明することによって,あらゆる病気の原因が説明でき,薬の作用の確証が得られると考える「還元主義」に基づく方法が20世紀から高度に発達し,万能だと思われてきました.漢方など迷信だと断じながら,漢方薬の実際的な有用性だけは認め,薬性理論を無視して,現代医学的な作用の確証に頼って運用した結果,漢方薬の副作用の多発を招くことがあります.近視眼的で,広く目が行き届かない現代医学の宿命的な欠点の現れです.

 漢方は,全体を見渡しマクロに病態や薬性を捉える「全体論」的な診断・治療を進めます.例えば,脳梗塞などの原因となる血栓を防ぐにも,単に凝血を抑止するのでなく,血栓を生じやすい血流の停滞「瘀血」を「丹参」・「川芎」で解消します.血流を支える「心」と「肺」の力の低下「気虚」は「人参」・「五味子」で助けます.休養態勢の弱まり「陰虚」には,「地黄」・「亀板」で代謝バランスを改善し,栄養素の無用な血中への動員を抑え,「肝」と「腎」の組織への栄養素の蓄えを回復し,血管や神経の過緊張を和らげます.栄養素の過剰摂取からの不要な代謝産物「痰湿」は「半夏」・「竹筎」で除きます.

 本場中国の漢方「中医学」は,こうした理論を厳格に継承しつつ,現代医学的な確証を得る努力も積み重ね,「全体論」を取入れようと模索する現代医学と融合が試みられています.