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No.87 漢方から学ぶ消化器系疾患の治し方

 近年,病院の処方として漢方薬を採用する医師が多くなり,処方の種類も増えてきました.しかし,日本の多くの医療現場では,漢方の理論を無視し,現代医学的な治療薬としての効能を期待して漢方を流用しているのが実情です.これに対して,欧米の現代医学の進歩の最先端では,病気のミクロな原因を解明する「還元主義」の医学の限界を深刻に受け止め,逆に,広い視野でマクロに病態を捉える「全体論」の医学の模範として,漢方を本格的に学んで取入れようとする動きがあります.

 胃腸などの消化器系疾患に対しても,漢方は,現代医学より大まかに病態の要素を捉えます.特に慢性的な胃腸障害には,消化・吸収・代謝の過程全般の機能の弱まりのもとになる「気虚」の要素を見抜き,力を養う「人参」・「黄耆」を主薬として処方を構成します.これは現代医学にはない,広い視野からの発想です.その上で個別的に,消化管運動の連携不良を起こす「気滞」には「木香」・「縮砂」,消化不良による「食積」には「山楂子」・「麦芽」,消化管からの吸収・代謝障害になる「痰湿」には「半夏」・「茯苓」,粘膜上皮の粘液減少・萎縮・代謝亢進を起こす「陰虚」には「沙参」・「山薬」を配合し,広範な疾患に有効に対応できます.

 現代医学と漢方のどちらが正しいか?――そんな対立関係は過去のこと.漢方の広い視野が現代医学を新たな進歩へと導く時代です.