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No.94 免疫系の疾患に対する漢方の考え方

 免疫系は,細菌やウイルスなどの病原体から人体を守る仕組みで,侵入物を自己の組織にとって有害な異物として認識し,攻撃して分解処理します.現代医学は,同じ免疫の仕組みが,無害なはずの食物や自己の組織を構成する物質にも過剰に及ぶため,アレルギーや自己免疫疾患を起こすことを解明しました.そこで,免疫の対象の病原体や物質を特定し,ミクロな反応のメカニズムを促進または阻害する薬を見つけ,免疫系の疾患を治療します.

 漢方では,病原体を免疫系が排除する仕組みを,ミクロな解明ではなく,マクロな説明として,「邪気」と「正気」の闘いと捉えます.「邪気」は,起こす症状の特徴から「風」・「熱」・「湿」などと,現象の本質として病原体を表します.免疫の過剰反応も「邪気」の症状に含めて考えます.これと闘う「正気」は,病原体をしっかり排除でき,過剰反応を起こさない,本来の免疫の態勢を表します.「正気」が弱くなると,人体に「邪気」が増えるばかりです.

 感染症でも,アレルギー・自己免疫でも,免疫系の疾患の漢方薬による改善の目的は,「邪気」の排除を助けるか,「正気」の強化です.「邪気」を助長しないよう薬性に配慮しながら,症状に応じて「気」・「血」・「水」の不足や滞りの回復,基礎の「精」の補充で,「正気」の強化を図ります.こうして,現代医学的な治療より広い視野で,本来の免疫の態勢を整えます.