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No.102 生命を支える基盤を強化する「紫河車

 「紫河車」という生薬が初めて中国の本草学書に記載されたのは400年前の明代でした.妊娠中に母体に形成される胎盤の別称です.出産で役目を終え,体外に排出された胎盤の組織を大切に保存し,よく洗浄してから火で炙って乾燥し,粉末状にすり潰して,内服薬の「紫河車」として用いられてきました.

 西洋医学でも,胎盤(プラセンタ)は医薬品・サプリメント・化粧品の原材料として利用されてきました.ヒトまたはブタなどの哺乳類動物の胎盤が広く使われています.

 漢方では,「紫河車」は鹹味の滋養性があり,「腎」を補う生薬に位置づけられます.「腎」は現代医学の腎臓より広く,泌尿・生殖・内分泌・免疫などを担い,生命の基盤を作る機能系を意味します.「紫河車」の長期服用により「腎」の原動力になる「精」を補充できると考えられ,「腎」の衰えによる不妊や更年期・老年期の疾患の基礎改善を図ることができます.

 「腎」の機能には,体内の「陰」と「陽」を作り出してバランスをとり,内部環境を一定に保つ,恒常性維持の働きがあります.明代に考案された「河車大造丸」は,「紫河車」を主薬として,「亀板」の配合で薬性を調整して「陰」の不足を補い,過剰な「陽」の亢進を抑制する漢方処方です.現代では,「腎」の働きの衰えを基礎とする喘息や高血圧に対する基本処方に選ばれるまで応用範囲を広げてきました.