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No.104 感染症の克服に期待される補完的役割

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,近年なかった世界的な大流行(パンデミック)を起こし,日本でも,大都市を中心に全国各地に感染が波及しました.肺炎を直接起こすこのウイルスの病原性のために,急速な重症化から多くの命が失われ,生還しても後遺症に長く苦しんでいる人が少なくありません.
 こうした疫病(または急性伝染病)との闘いは最近始まったことではなく,古来,洋の東西を問わず重要な医学的課題でした.現代医学は,20世紀までにワクチンと抗生物質・抗ウイルス薬による免疫・治療法の確立で,既存の疫病をほぼ克服しましたが,新病原体の出現で,再び厳しい闘いを強いられています.

 漢方の歴史でも,特に明・清代に多発した疫病との闘いを経て,感染症状を解消し,健康状態を回復するため,用薬や処方の構成が進歩を遂げてきました.現象の本質を広く見渡す漢方のマクロな認識と知恵を参考に,現代医学の治療を補完する役割が期待されます.
 感染症に用いる「銀翹散」は,「熱」の要素が強い疫病に合わせ,芳香・寒涼性の「金銀花」を主薬として,炎症を鎮めて病原体を抑え,あまり発汗させずに解熱する処方です.清代に考案され,現代まで活用を広げてきました.
 病後回復に用いる「生脈散」は,「気」を補い体力を回復する「人参」に,体を潤して休養させる「陰」を補う「麦門冬」と「五味子」が配合され,疫病患者の回復に適しています.金代に考案され,後に効用が再評価された処方です.