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No.105 感染症との長い闘いに備える体づくり

 新型コロナウイルス感染症の大流行は,既に1年にわたり,全国的な感染拡大から収束し切らないうちに再拡大を繰返すという経緯をたどり,さらに長い闘いが思いやられます.流感の季節にも差しかかり,重症の感染者の増加による医療体制の逼迫が危惧されます.
 感染者の重症化の原因は主に,ウイルスと闘う体内の免疫システムの過剰反応のためと説明され,血管組織の炎症による血栓形成の関与も認められています.そこで,ワクチンの開発とともに,ウイルスの増殖と免疫の暴走のメカニズムを解明し,阻止する新物質を発見するべく世界各国で研究が進んでいます.

 漢方の生薬と処方にも,この感染症の予防や重症化の回避に役立つヒントがあるかもしれません.広い視野で現象を観察し,病気や薬効の本質を見抜くマクロの医学として,現代医学が見落としている知恵があるからです.
 免疫の改善が期待される生薬は「黄耆」です.風邪を引きやすく治りにくい体質を改善する,元代に考案された処方「玉屏風散」の主薬です.長期服用で「気」を補い,感染症の症状を悪化させずに早期回復できる体づくりを図ります.
 重症化の回避が期待される生薬には「丹参」もあります.清代に多発した疫病で,「熱」が「血」へと波及する過渡期の段階に用いた処方「清営湯」に配合されました.「丹参」は寒涼性で,「熱」を抑えながら「血」の停滞を防ぎます.現代には「冠心Ⅱ号方」の主薬となり,健常者の血栓予防にも役立つ広い用途が開けました.