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No.27 筋肉をしっかりさせる薬性

 人体における筋肉の役割は,各部の構造を保ち,各種の運動を起こすことです.これらの役割を万全に果たせるように,心身の態勢に応じて神経系が連携し,それぞれの筋肉の緊張性を適度に高める仕組みが働いています. 「升麻」・「柴胡」・「葛根」・「黄耆」などの生薬は,辛・甘味・芳香・軽質の生薬に特有の昇浮性という薬性をもち,垂れ下がった筋肉を引き上げる(昇提)作用があります.興味深いのは,これらの生薬が末梢血管の拡張作用をもつことで,おそらく同様に,末梢神経への作用で筋肉の緊張性を高めると考えられます.

  「人参」・「党参」・「白朮」・「黄耆」などの生薬は,薬性の尺度としては,滋養性・補益性の代名詞である甘味が共通で,心身両面の活動を盛んにすることで,元気とエネルギーの蓄えを増やす(益気)作用があります.大脳皮質・脳幹など中枢神経からの活発な働きかけを促して,筋肉の緊張性を高めると考えられます.

 「補中益気湯」という漢方薬は,両方の作用がある「黄耆」を多量に主薬として用い,さらに益気作用がある「人参」・「党参」・「白朮」を適量,さらに昇提作用がある「升麻」・「柴胡」を少量ずつ配合した処方です.内臓平滑筋・括約筋・抗重力筋などに本来の緊張性を回復することで,胃下垂・脱肛・失禁などのほか,筋肉のたるみ・弱まりが関与する病態・症状を改善し,健康と美容の増進に役立ちます.