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No.45 生命を支える組織を休養させる基本処方

 「六味地黄丸」は宋代の小児科の名医が考案し,後世の医師に多大の影響を与えた漢方処方です.金・元・明・清代にわたり,漢方理論の進歩を反映した多彩な応用処方を生み出す展開を経て,現代も,優れた薬性バランスの「補腎滋陰」の基本処方として汎用されます.

 「補腎滋陰」の薬効を発揮する主役の生薬は「熟地黄」です.濃厚な甘味による高い滋養の薬性で,「腎」系の「陰」の不足を改善します.「腎」系は,発育・成長・生殖・恒常性維持・抗老化に関わる,生命を支える機能系です.「陰」は心身の休養で蓄えられる,組織の栄養と潤いの要素です.補佐役の生薬の「沢瀉」も「腎」系に作用し,寒涼性による抑制,淡味による排水の薬性で,栄養代謝の過熱を抑え,滋養の過剰も防ぎ,体液調節を助けます.

 「養肝斂陰」の役割の脇役は「山茱萸」です.酸味と渋味による収斂・保護の薬性があり,「肝」系に作用し「陰」の消耗を防ぎます.「肝」系は心身の活動/休養を切り換える自律機能調節系です.補佐役「牡丹皮」も「肝」系に作用し,寒涼性と苦味による抑制,芳香と辛味による発散の薬性で,活動の亢進を鎮めます.

 「健脾養陰」の役割の脇役は「山薬」です.甘味と渋性による補益・保護の薬性で,「脾」系に作用し「陰」の補給を助けます.「脾」系は飲食物から栄養と水分を吸収する消化器系です.補佐役「茯苓」も「脾」系に作用し,淡味による排水の薬性で,消化吸収の負担を軽減します.