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No.52 痛みを起こしにくい身体を回復する処方

 漢方では,関節痛・腰痛・神経痛・筋肉痛 など,上下肢・体幹・頭頸のどこかに痛みをともなう症候・疾患は「痺証」と総称されます.「痺証」に適応する処方には,唐代(7世紀)の医学書『千金方』を原典とする「独活寄生湯」があります.痛みを鎮めるだけでなく,痛みを起こしにくい身体を回復する目的をもつ処方です.日本では従来,速効的な鎮痛作用の処方を求める傾向が強かったせいか,1990年代まで「独活寄生湯」の手軽に服用できる製剤は作られませんでしたが,日本人の身体が真に求めていた絶妙な薬性の処方だと思います.

 「去風湿・止痺痛」という薬効を「独活寄生湯」の構成生薬の「独活」・「桑寄生」・「秦艽」・「防風」・「細辛」などが発揮します.辛・苦味・芳香の生薬が有する発散と乾燥の薬性が,「痺証」の発生・発展・悪化の原因である「風」や「湿」の病理要素を除去することで痛みを鎮めます.

 「健脾益気・調肝養血・補腎益精」という薬効を「人参」・「茯苓」・「甘草」・「熟地黄」・「当帰」・「白芍薬」・「杜仲」・「桑寄生」・「牛膝」が発揮します.甘・酸味の生薬の滋養と保護の薬性が,消化吸収を担う「脾」を健全にして,運動器を含む身体機能の力強さや耐久性を支える「気」を補充します.態勢転換を自律調節する「肝」を安定化し,身体をゆったり休養させる「血」の流れを増やして,運動器が無理なく働ける栄養条件を整えます.骨代謝も含めて身体の恒常性維持と抗老化のために働く「腎」を守り,その原動力を生み出す「精」の消耗を防ぎます.