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No.56 「人参」と「蛤蚧」が配合された「補腎薬」

 漢方の本場である中国では,数多くの漢方処方が,服用に便利な様々な剤型の「中成薬」として広く愛用されています.「中成薬」を構成する処方には,漢方の歴史の中の,主に漢代から清代までの著名な書物を原典とする基本処方と,その後の漢方理論の展開を反映する改良処方があります.「補腎薬」の部類に属する「中成薬」の改良処方には,基本処方では希だった「人参」の配合が多く見られ,これには理論上の複数の背景があると考えられます.

 元代の医学書を原典とする「人参蛤蚧散」は,主に「肺」の機能を補う「人参」とともに,関連の深い「腎」の機能も補う「蛤蚧」を配合した基本処方です.これを逆に応用し,主に「腎」の機能を補う改良処方として,「人参」と「蛤蚧」を配合して作られた「中成薬」が「参茸丸」です.

 「補腎助陽」という「参茸丸」の主要な薬効は,「鹿茸」・「巴戟天」の鹹・甘・辛味と温熱性による滋養・鼓舞の薬性が「腎」に働くことで生じます.「人参」・「黄耆」の甘味と温熱性は,間接的に「助陽」の薬効の増強に役立ちます.

 「補腎納気」という改良処方「参茸丸」を特徴づける薬効は,「蛤蚧」・「冬虫夏草」の鹹・甘味と温熱性による滋養・摂納の薬性が,全身の組織に必要な物質とエネルギーを供給する上源(「肺」)と,体内から失われないよう封蔵する下の関門(「腎」)の両方の機能を養うことで生じます.「人参」・「黄耆」の甘味と温熱性は,供給側を強めて「納気」の薬効を助けます.