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No.71 脳の過剰な興奮を鎮める天然素材の薬性

 楽しいこと・好きなことに夢中になって,ウキウキ・ワクワク・ドキドキと興奮のひと時を過ごすことは,生活と人生のアクセントとして,活気あふれる精神と身体を維持するために有益です.反対に,悲しいこと・恐いこと・ショックなこと・嫌なことのため,感情の高ぶりが治まらないと,精神と身体に影響が及びます.精神的ストレスや心理的な重圧から,無意識のうちに脳の過剰な興奮を生じ,身体機能に異常が現れることもあります.

 漢方では,過剰な脳の興奮を鎮めて,感情と精神の安定に役立つ生薬を「安神薬」と呼び,薬性に即して2種類に分類されています.

 「重鎮安神薬」には,「琥珀」・「竜骨」・「珍珠」・「珍珠母」・「牡蠣」・「紫石英」・「磁石」・「鉄落」があります.動植物の化石・貝殻・鉱石などで,多くは無機質素材の重質・鹹味によって沈降させる薬性が,興奮を鎮める作用をもたらします.特に,脳内の強い興奮をうかがわせる,感情・精神面あるいは身体機能面の激しい症状に適応され,優れた鎮静効果を発揮します.

 「滋養安神薬」には,「酸棗仁」・「柏子仁」・「蓮子」・「小麦」・「秫米」・「五加果」・「竜眼肉」・「大棗」・「夜交藤」・「合歓皮」・「百合」・「遠志」があります.植物の種子・果実・蔓茎・樹皮・根などで,多くは食用にもなる滋養性素材の甘・酸・渋味によって安定させる薬性が,心身の休養の働きを助けます.興奮を自ら抑制できる脳の生来の仕組みを回復していきます.

 
大熊薬局 大熊俊一先生<大熊俊一 オオクマ トシカズ>
1980年 東京薬科大学卒業。薬剤師試験合格。
1981年 同大学第2薬化学教室助手。
1982年 同退職後、研究生。
1987年 同大学に学位論文を提出し、審査・試験に合格し薬学博士を取得。
1991年 有限会社大熊薬局代表となる。
掲載紙名:両毛新聞(3ヵ月に1回)(No.47までは月1回)