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第4回定例会報告 2009年5月

テーマ・・・気滞(気の働きの停滞)
     『気滞のうらにある病理を探り出し適切な中医薬を選択する重要性』
報告者・・・光陽台薬局 秋元清昭

 気滞のうらにある病理を探り出し適切な中医薬を選択する重要性 栃木中医薬研究会の2009年5月の定例会では、中医学講師の陳志清先生に「気滞」に関連する病理と中成薬の使い分けについて講義して頂きました。

理気薬の活用経験

 参加者が各自の症例報告を行いました。婦人科疾患、更年期障害、うつ病、腰痛等幅広い症例報告となりました。気滞がいかに多種多様な症状が現れるかということなのでしょう。

気滞の特徴

 そもそも「気」とはなにか?から講義は始まりました。気は生命力とかエネルギーの一種とかいわれるが、そうではなく総合的な概念で、気の中身は非常に豊富で、気滞も範囲がとても広いとのことでした。気滞に使用する中成薬は逍遥丸、開気丸、半夏厚朴湯等いろいろとありますが、その複雑さゆえ実際に使用してみると、教科書通りにその効果を発揮することができない場合がよくあり、成果をだすには経験も大切なことを強調されました。

 “気が変わりやすい”とよく言いますが、気滞による痛みの場合は、その場所が移動したり、痛むかと思えば痒みとして感じたり、時間と共に痛みが増したり軽くなったりと変化しやすく、また薬の効果は良かったりそうでなかったりと不安定であるのが特徴であるとのことで、これは教科書にもよくでています。痛みは最終的に脳が関知するもので、あれこれ変化するのは脳の痛みに対する認識の乱れということができる。つまり気滞とは気の乱れであることを教わりました。

気滞の多種多様な病症状

 現代社会では、過剰な精神的ストレスがかかりやすく、特に肝の気鬱(気滞)を起こしやすく様々な症状が現れます。中国の名医といわれる老中医が、好んで使用する生薬の一つは、気の動きをよくする柴胡で応用範囲の広い生薬とのことです。気の生理作用は推動作用(ものを動かす)、温煦作用(体を温める)、防衛作用(外からの侵入をふせぐ)、固摂作用(漏れることをふせぐ)、気化作用(ものを変化させる)がありますので、その動きが滞れば様々な症状が現れます。

 また人体を構成する物質である気血水は、お互いに密接にかかわりあっており、たとえば気と血の関係では、「血は気の母」といわれ血液は気を載せて動き、「気は血の帥」であり気は血液をひっぱって動くといわれ、気は常に血と一緒に動きます。それ故、気滞は同時に血瘀を生じ易く、気滞があれば血瘀も考慮する必要があります(気滞血瘀)。また気滞により水のめぐりが悪くなり、浮腫を生ずることもあります。このように気が滞ることにより、いろいろなところに影響し多種多様な症状が現れます。

女性によく使われる逍遥丸

 女性を治すには、四物湯と逍遥丸があればよいという記載が、中国の婦人科専門の古典にあるそうです。誇張された表現ですが、女性には補血と理気が大切だということなのでしょう。女性では特に生理があり「血は常に不足し」、「気は常に余る」といわれます。しかし気の余りは気が充実している訳ではなく、相対的に余っているように見えて、実は気が不足(気虚)していることがあります。肝の気滞によく使われる逍遥丸の構成生薬を見てみると、養血薬、疏肝薬、健脾薬が配合されて特に女性にはピッタリの中成薬といえます。勿論男性にも使用します。

昇降出入と昇清降濁

 気滞はいろいろな臓腑(肝、肺、脾)と関わり、特に肝と胆と密接な関係があります。気滞は、気機(気の運動)である昇・降・出・入の異常で、例えば肺は降を主っていますが、気の乱れが生じると咳や呼吸困難が現れます。この時は、気逆と気滞は同時に現れています。つまり気が行くべき所に行けないので滞るということなのです。喘息の咳で理気剤が効果をあげるのはこういう時なのでしょう。脾と胃は表裏の関係にあり、脾気は昇を、胃気は降を主っています。この気がみだれると消化や吸収に影響して下痢や悪心嘔吐が現れます。

 またその他の臓腑にも影響しいろいろな病状が現れます。過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎は、この気の乱れにより腹痛や下痢を起こす場合があります。 この気の乱れを改善する代表生薬は木香です。

中医学における肝の働きと腎とのかかわり

 「肝は疏泄を主る」といい、全身の気をすみずみまで行きわたせ、精神状態を安定させるはたらき同時に、消化を助ける作用がある。疏泄の失調が気滞である。そして「血を蔵す」といい、血を貯蔵補給する作用があるため血とのかかわりが大きい。女性は血液不足になりやすく、疏泄に影響し肝気鬱結(気滞)が起こりやすい。

 血の病態には、血虚(血の不足)と血瘀(血の滞り)がある。肝気鬱結で瘀血になり、消化機能低下で血の不足になると、「精血同病」といわれ「肝腎同病」となる。うつ病や、更年期障害、思春期うつ病になりやすいのは、肝のみならず腎(七の倍数の年齢が節目となる)とのかかわりも深い。従って補腎(腎を補う)も必要である。

 気滞の多様性から中成薬の選択もよく考える必要がある。たとえば理気剤で気のめぐりをよくすると、消化機能が良くなり気血も満たされ、元気も出てくると同時に免疫も高まることがよくある。胃腸が弱い人が理気剤で良くなるのはそのせいである。

気滞に使用する中成薬も多種あり症状に合わせて選択する

 気滞は普遍的に存在して、いろいろな形で症状が現れる。症状に合わせた理気剤を選ぶ必要があるが、柴胡剤が良く使用される。理気剤により気を消耗したり、燥性が強く現れたりすることもあるので注意が必要である。その点柴胡剤のうちでも逍遥丸は一番使いやすい。胃痛を伴う症状、腹満や胸の張り、不眠、のぼせ、めまい等症状により中成薬も使い分けが必要である。プロラクチンが高い場合、肋間神経痛や帯状疱疹後の後遺症、子宮内内膜症の痛みに応用できる中成薬もある。肝気鬱結が進むと「肝鬱火化」となり熱症状が現れるので、その時は熱を冷ます加味逍遥散を考えることが必要である。

木を見て森を見ないことの再確認

 以上、気滞があると必ず瘀血があると考えて良いこと。その時は気鬱が主か、瘀血が主かにより選ぶ中成薬も変わってくる。また逆に瘀血がひどくなると気滞を引き起こしたり、気虚から気滞になっている場合も考慮すること。体の構成物質の基となっている気血水の関係は複雑に絡み合っていること。症状の原因の本元をつかむことの大切さを、中医学の基礎をあらためて学ぶことにより確認することが出来ました。