メニューを開く

No.75 ウイルス感染症に効果が期待される生薬

 病原体の人体への感染は,流行性発熱性疾患や,急性・慢性の炎症性内臓疾患の原因になります.病原体には,細菌やアメーバなどの単細胞の微生物のほか,人体の細胞を利用して増殖しようとするウイルスがあります.

 漢方では,ウイルス感染症への効果が期待される生薬に「板藍根」があります.「板藍根」はある種の藍の根です.藍色の染料(インジゴ)がとれる植物「藍」は多種類あり,日本ではタデ科アイ(蓼藍),世界的にはマメ科インドアイ(木藍)が有名ですが,ほかに,アブラナ科ホソバタイセイ(菘藍),キツネノマゴ科リュウキュウアイ(馬藍)があります.

 漢方は,菘藍と馬藍の根を「板藍根」の名称(板状の葉形に由来)の生薬として使い始めました.色彩の追求が医学に役立った歴史の原点です.

 「板藍根」の原典は明代の本草書とされますが,金・元代の方剤書に「普済消毒飲」という処方の構成生薬として「板藍根」が既に採用され,清代の医学書でも「普済消毒飲」の改良処方に「板藍根」が受け継がれ,急性伝染病から人々を救うために使われてきました.現代では,「板藍根」の抗ウイルス作用が特に注目され,広範な疾患への応用研究が進んでいます.

 「板藍根」は,苦味で寒涼性の生薬が有する清浄化・抑制・沈降に働く薬性を活用して,病原体の増殖を抑え,炎症・発熱の病勢を鎮める薬効をもつ「清熱解毒薬」に位置づけられます.その上で,感染予防や内臓疾患治療へと,着実に応用範囲が広げられています.

大熊薬局 大熊俊一先生<大熊俊一 オオクマ トシカズ>
1980年 東京薬科大学卒業。薬剤師試験合格。
1981年 同大学第2薬化学教室助手。
1982年 同退職後、研究生。
1987年 同大学に学位論文を提出し、審査・試験に合格し薬学博士を取得。
1991年 有限会社大熊薬局代表となる。
掲載紙名:両毛新聞(3ヵ月に1回)(No.47までは月1回)