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No.10 「昇浮性」という薬性をもつ生薬

 「昇浮性」とは文字どおり,昇らせる・浮かす薬性です.つまり,下から上へ(昇らせる)と,内部から表面へ(浮かす)という方向性をもった薬効のもとになります.昇浮性の生薬を服用すると,垂れ下がったものを引き上げ,沈み込んだものを高揚させ,体内にこもったものを体外に放散させ,または,他の薬効を体の上部や体表に到達させるのに役だちます.

 たとえば,胃腸などの内臓下垂やその他の筋肉の垂れ下がりに,昇浮性の生薬「黄耆」・「升麻」・「柴胡」で筋肉の緊張性を高める薬効を生かした処方「補中益気湯」が使われます.感情・欲求の抑圧による心身のリズムの沈滞とストレスの欝積には,昇浮性の「柴胡」・「薄荷」で心身の働きを高揚させ,ストレスを発散させる薬効のある「逍遥散」が使われます.体表の皮膚・粘膜が有するバリア機能の弱まりで感染症やアレルギーを起こしやすい人には,体の生理的機能を支える力を高める生薬の薬効を特に皮膚・粘膜へと到達させるため,昇浮性の「黄耆」・「防風」の働きを活用してバリア機能を回復する「玉屏風散」が使われます.

 昇浮性の生薬の副作用として考えられるのは,昇浮性の作用が一部で行き過ぎてしまうことで,これは,昇浮性の反対の「沈降性」という薬性の生薬を適切に配合すれば容易に解消することができます.問題なのは,そもそも昇浮性や沈降性という薬性自体が日本ではなじみが薄く,熟知している人が少なく,はっきり意識して活用されていないことです.