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No.88 こころの病気の改善にも漢方の体づくり

 現代医学では,病気の診断・治療のため,ミクロな原因を解明する「還元主義」に基づく方法が発達してきました.脳内でも,神経間の命令伝達を媒介する物質が解明されました.セロトニンという伝達物質を分泌する神経の働きが弱ると,心身の活動を準備する平静な緊張状態を保てず,うつ病の原因になることがわかりました.そこで,分泌されたセロトニンの回収を阻止して,人工的に神経間に伝達物質を留まらせる作用をもつ薬(SSRI)が開発され,抗うつ剤として汎用されています.

 そもそも,この伝達物質の分泌が弱るのは,緊張に堪える神経に負担を掛け,疲れさせてしまうためで,心身の活動と休養がうまく循環しないからでしょう.現代医学の薬物療法はミクロな知恵で,神経が働く手助けになる細工をして,活動の態勢を一時回復する方法です.神経を疲れさせる構図は変わりません.

 この分野でも漢方の併用が多くなりました.漢方らしくマクロに見渡す「全体論」的な改善が期待されます.漢方理論では,感情と体内機能の連携を統御する「肝」から,心身の活動の原動力となる「気」の流れが停滞し,精神を生み出す「心」に,休養と回復に働く「血」が不足すると,緊張を活力に転化できず,達成感や充足感も得られず,焦燥・不安に陥ると考えます.そこで,「気」の停滞に「柴胡」,「血」の不足に「当帰」などで心身の改善を図ります.