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No.13 「補」と「瀉」の薬性バランス

 漢方には,生薬の薬性の尺度の一種として,「補」と「瀉」の尺度があります.栄養素などの物質面の不足あるいは機能面の弱まり(「虚」と総称される状態)の回復に役立つのが「補」の薬性です.老廃物や病理産物を含めた物質面の過剰・停滞あるいは機能面の亢進・失調(「実」と総称される状態)の解消に役立つのが「瀉」の薬性です.要するに,「虚証」の人に合うのが「補」,「実証」の人に合うのが「瀉」です.

 しかし,たとえば内臓機能の弱まりから老廃物の停滞(虚から実)を生じたり,代謝亢進から栄養不良(実から虚)につながるなど,虚と実の要素は相互に随伴しうるので,実際には両方が多少なりとも混在すると考えます.このため,総体として虚証か実証の一方に診断されても,随伴しうる他方の要素に配慮して,「補」と「瀉」の両方を適度なバランスで配合します.また,一方の薬効の行き過ぎを防ぐ意味で両方を配合することもあります.

 「六味地黄丸」は,心身の休養の仕組みの弱まりによる諸組織の栄養不良(「陰虚」)を回復する「補」の3生薬「地黄」・「山茱萸」・「山薬」に加え,「瀉」の3生薬「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」で,随伴しやすい熱代謝の亢進や水分代謝の失調を解消し,副作用も防げる基本処方として汎用されます.「玉屏風散」は,感染・アレルギー・気候変化による皮膚・粘膜組織の過剰反応を「瀉」の「防風」で解消して,体表組織の本来果たすべき保護・免疫・適応の機能の弱まり(「衛気虚」)を「補」の「黄耆」・「白朮」で症状の悪化なしに回復できる処方構成です.