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No.37 過熱や脱水を防ぎつつ活力を高める薬性

 心身のあらゆる活動にエネルギーは必要です.エネルギーの産生には熱の産生が伴い,体温の維持に役立っているのですが,エネルギー産生が亢進し過ぎると,過剰な熱を発汗により体外に放散し続けなければならず,脱水や熱中症などに陥る危険性もあるわけです.「生脈散」は今から約800年前(金代)に考案された漢方薬で,栄養素・水分代謝のバランスを保ちながら,エネルギー産生を力強く促進できる,「気陰双補」の代表処方です.3つの成分生薬による,主に「心」や「肺」系統に対する2つの薬効を組み合わせた処方構成です.

 「益気救脱」という薬効のために用いられている「生脈散」の成分生薬は「人参」です.薬性は,甘味に特有な補益・滋養性に温熱性が加わり,「気」(エネルギー産生・活動の働き)を旺盛にする効果につながり,「脱」(衰弱による虚脱状態)から回復させる効力もあります.「五味子」という成分生薬には,酸味に特有な収斂性で,「気」が消耗しないよう保護する効果があり,「益気救脱」の補助になっています.

 「滋陰生津」という薬効のために用いられている成分生薬は「麦門冬」です.甘味に特有な補益・滋養性に寒涼性が加わり,「陰」(栄養素の蓄え・休養の働き)の不足をやさしく癒す効果につながり,「津液」(有効活用できる体内水分)を十分に保持する効能もあります.「五味子」は,同じく酸味に特有な収斂性で,「陰」と「津液」も消耗しないよう保護する効果があり,「滋陰生津」の補助にもなっています.