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No.50 消化器系の組織を養い機能を高める処方

 胃腸を中心とした消化器系(「脾」)の回復に役立つ漢方薬に,宋代の公定書『和剤局方』に収載された「参苓白朮散」があります.同書が原典の「四君子湯」を基本骨格とする加味処方の一つです.機能の弱まり(「気」の不足)を回復する主要目的を直系的に受け継いでいる「香砂六君子湯」と違い,組織の疲弊(「陰」の不足)の回復にまで幅を広げた加味処方です.

 「益気健脾」の薬効を「人参」・「白朮」・「山薬」・「甘草」などの生薬が生み出します.「脾」を健やかにする作用が共通で,とりわけこれらの4種は,甘味に特有な補益の薬性で「気」を補い,弱まった胃腸の消化吸収機能を高めます.さらに,「白朮」は苦味の乾燥の薬性,「茯苓」・「薏苡仁」は淡味の排水の薬性,「白扁豆」は芳香の発散の薬性で,軟便・下痢のもとになる消化管内・組織間の水分停滞を解消して胃腸の負担を軽減します.「縮砂」は芳香の賦活の薬性で,消化物の疎通に関わる消化管運動・消化液分泌を促進し,「蓮子」は渋味の収斂の薬性で下痢を止めます.「桔梗」は軽質の昇浮の薬性で栄養素の全身への供給を促進します.

 「養陰扶脾」の薬効を「山薬」・「薏苡仁」などの生薬が生み出します。「脾」への作用は共通ながら,甘味の補益の薬性には「陰」を補う働きもあり,口・唇・指先の乾き・荒れ・ささくれ・角化のもとになる,疲弊した消化器系の関連組織を扶養します.「茯苓」・「白扁豆」・「蓮子」・「桔梗」は,この目的にも支障なく,補助になるよう厳選された穏やかな薬性の生薬です.