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No.35 ぐっすり眠って活力を養うための薬性

 「帰脾湯」という漢方処方は,宋代の文献に最初の記載があり,その後の元・明・清代に適応症と構成生薬が追加・補完され,広範に活用できる「気血双補」の代表処方のひとつとして確立された漢方薬です.2つの薬効を連携させるため,2つの処方を組み合わせたような構成になっています.

 「帰脾湯」の構成生薬のうち,「人参」・「黄耆」・「白朮」・「茯苓」・「甘草」は,「脾」の系統(消化器系)に作用するのが共通で,甘味の生薬が有する補益・滋養の効果で,胃腸機能を回復します.「木香」は,辛味・芳香の刺激による鼓舞・賦活の効果で,胃腸の調子を整えて,食欲を増進します.これらの生薬の効果を総合すると,「補気健脾」の薬効が得られます.飲食物から栄養素を効率よく吸収し,組織の構成材料を確保しつつ,エネルギー産生を高め,心身の盛んな活動の仕組みを回復します.

 「当帰」・「竜眼肉」・「酸棗仁」は,「心」の系統(中枢神経系)に作用するのが共通で,甘味の生薬が有する補益・滋養の効果で,各組織の栄養状態を改善し,脳の興奮性を自ら抑制する働きを回復します.「遠志」は,辛味の刺激による発散・疎通の効果で,滋養・鎮静作用を行き届かせる助けになります.これらを総合すると,「補血養心」の薬効が得られます.心身の安らかな休養の仕組みを回復することにより,ゆったりした血流で組織へ十分に栄養供給でき,深い睡眠,精神・情緒の安定,記憶力の維持,心拍の安定につながります.