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No.41 「緩補」を基礎にした「峻補」の漢方処方

 「十全大補湯」は,日本でも広範に応用される有名な漢方処方です.宋代の公定書『和剤局方』に収載されたのが最初で,「気血双補」 の代表処方のひとつです.やはり同書を出典とする,「気」と「血」を緩やかに補う「緩補」の 2処方を合体し,さらに薬効を促進する生薬配合で,極度の衰弱と消耗も力強く回復できる「峻補」の処方とさえ呼ばれる漢方薬です.

 「益気健脾」という薬効を発現させるために配合された生薬は,「人参」・「白朮」・「茯苓」・「炙甘草」で,「四君子湯」という独立処方としても使われます.薬性としては,「脾」の系統(消化器系)への作用が共通で,甘味の補益性で「気」(機能の活発さ)を補い,苦味の乾燥性と淡味の排水性により胃腸の負担を軽減し,栄養素の消化吸収を改善し,体力を高めます.

 「養血調肝」という薬効を発現させるために配合された生薬は,「熟地黄」・「当帰」・「芍薬」・ 「川キュウ」で,「四物湯」という独立処方としても使われます.薬性としては,「肝」(自律機能 調節系)への作用が共通で,甘味の補益性と 酸味の収斂性で「血」(実質的な血流量)を補い,辛味・芳香の疎通性により血行停滞を解消し,末梢組織への絶え間ない栄養供給を支え,無理なく心身の態勢転換ができるようにします.

 さらに配合された「黄耆」・「肉桂」は,甘味・辛味・温熱性による昇浮・振奮・鼓舞の薬性をこの処方に加え,2薬効の発現を盛んにし,隅々まで速やかに波及させる力を与えます.