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No.19 胃腸機能を改善する薬性

 胃腸を中心とする消化器系は,漢方においては「脾」と表されます.現代医学的な脾臓とは意味が違い,飲食物から栄養素と水分を消化吸収し組織再生の材料やエネルギー源として供給するシステム全体を象徴する名称です.

 胃腸機能を改善してくれる生薬の「人参」・「党参」・「白朮」・「茯苓」・「ヨク苡仁」・「山薬」・「蓮子」・「牛肉」は,漢方の薬性の尺度としては甘味をもつことが共通で,「脾」を健やかにする(健脾)効果があるとされています.つまり,甘味を代名詞とする,広い意味での補益・滋養の作用で組織を養い,胃腸機能をじっくり根本的に回復させるという意味です.

 やはり胃腸機能を改善してくれるのは同じでも,「カッ香」・「蘭草」・「荷葉」・「甘松」・「陳皮」・「縮砂」・「木香」は,漢方の薬性の尺度としては芳香をもつことが共通で,「脾」を目覚めさせる(醒脾)効果があるとされています.芳香が嗅覚を通して心身に刺激を与えることからも類推できるように,これらの芳香生薬は,この系統への鼓舞・賦活の作用で,胃腸機能を一時的ながら速効的に回復させるのです.

 「香砂六君子湯」という漢方処方は,甘味の「人参」・「党参」・「白朮」・「茯苓」による健脾の薬効で,体内に栄養素と水分を取り入れる胃腸の本来の機能をじっくり根本的に改善していくと同時に,芳香の「陳皮」・「縮砂」・「木香」による醒脾の薬効で,胃腸運動・分泌の活発化を通じて,速効的に胃腸の不調を解消し,食欲を増進させるのにも役立つ漢方薬です.