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No.20 心臓と脳に効く薬性

 現代医学における心臓は,単なる血液循環ポンプですが,漢方における「心」は,文字通り「こころ」を生み出す大脳皮質を頂点とした中枢神経系と,それに支配されている心臓を中心とした血液循環系を,機能的に不可分で一体の器官系として表したものです.

 「牛黄」・「麝香」・「竜脳」・「樟脳」・「菖蒲」・「蘇合香」などの生薬は,薬性の尺度としては,強烈な刺激のある芳香や辛味が特徴的で,「心」系を目覚めさせる(醒脳)効果があります.脳に刺激を与え,蘇生・気つけ・意識賦活,または,心臓の拍動をしっかりさせる目的で「六神丸」・「牛黄清心丸」などの成分として使われています.現代医学におけるジギタリスやカンフルなどの強心薬もこの部類です.強心といっても,一時的に力を貸して持ち直させる以上の効果はなく,むやみな反復使用や長期適用の処方への配合は避けるべきです.

 「酸棗仁」・「柏子仁」・「夜交藤」・「小麦」・「五味子」・「蓮子」・「大棗」・「竜眼肉」・「猪心」・「亀板」・「百合」・「麦門冬」などは,薬効の尺度として,緩和・補益の性質の現れである甘味,または,収斂・保護の性質の現れである酸味があり,「心」系を養う(養心)効果があります.神経系や心筋の組織の栄養状態を改善して,脳の興奮を抑制する働きを回復し,深い睡眠,精神・情緒の安定,記憶力の維持,心拍の安定を得る目的で,「天王補心丹」・「生脈散」・「帰脾湯」・「酸棗仁湯」・「甘麦大棗湯」などの成分として使われています.心臓と脳をやさしくいたわるため,長く愛用すべき漢方薬です.